フォトニュース — 2015年10月12日 at 6:19 PM

ヘッドコーチが「天才」と語る鳥海連志とは

11日、日本vs韓国(予選リーグ) 攻め上がる鳥海連志

11日、日本vs韓国(予選リーグ) 攻め上がる鳥海連志

「将来の可能性を考えてのことではなく、即戦力として欲しい選手だと思ったんです」
 昨夏、15歳だった彼を日本代表候補に選出した理由を、及川晋平ヘッドコーチ(HC)に訊くと、こんな答えが返ってきた。連日、リオデジャネイロパラリンピックの出場権をかけた熱戦が繰り広げられる中、彼のプレーを見ていると、その言葉を思い出さずにはいられない。チーム最年少、16歳の鳥海連志の勢いが止まらない――。

 10日に開幕した車椅子バスケットボールのアジアオセアニアチャンピオンシップ。男子は出場12チームのうち、上位3チームがリオへの切符を獲得することができる。昨年の世界選手権覇者のオーストラリアは頭一つ抜けた存在で優勝候補の筆頭であることは間違いない。残り2枠をイラン、韓国、そして日本の3チームで争うことが予想されている。

 そんな中、日本の最大のヤマ場とされたのが、11日に行われた予選プール第2戦の韓国戦だった。4年前のロンドンパラリンピック予選では、わずか1点差で辛勝し、切符を獲得した日本だが、実はそれ以降、一度も勝つことができていなかった、まさに宿敵と言っていい相手だ。

 その韓国戦で躍動感のあるプレーで会場を沸かせたのが鳥海だ。チームへの貢献度の高さは、出場時間を見ても明らかだ。スタメンの香西宏昭(36分36秒)、藤本怜央(35分2秒)、千脇貢(32分24秒)に続いて4番目に多い24分41秒。それだけ鳥海のアグレッシブなプレーが韓国に対して機能していたということだ。

 及川HCは試合後、鳥海についてこう語っている。
「彼は純粋に天才ですよね。言ったことをすぐにゲームの中で結果につなげていくんですから。おかげで同じ(持ち点が)2.0の豊島(英)を休めることができたことが勝因につながったと思います」

11日、日本vs韓国(予選リーグ) ボールを奪いにいく鳥海連志

11日、日本vs韓国(予選リーグ) ボールを奪いにいく鳥海連志

15歳で開かれた代表候補への扉

 鳥海が日本代表候補の仲間入りをしたのは、昨年8月のことだ。当時はまだパラリンピックは自分にはまだまだ遠い世界だと思っていたという。転機となったのは、昨年7月に行われた、のじぎく杯だった。鳥海擁する長崎県選抜は順当に勝ち進み、決勝へとコマを進めた。相手は、日本選手権で準優勝3度の強豪NO EXCUSEだった。結果的に長崎県選抜は44-58で敗れたが、この時のプレーが日本代表の指揮官でもあるNO EXCUSEの及川HCの目に留まったのだ。

「長崎県選抜はずっとプレスをかけてきたのですが、鳥海のボールへのプレッシャーは抜群でした。以前から彼のことは知っていましたが、改めて体幹が使えるという自分の身体的な強みを軸に据えた、いいプレーをする選手だなと思ったんです」

 鳥海自身もまた、その試合での自分に納得していた。
「相手のセンター陣に対して激しくプレッシャーをかけたり、パスカットも積極的に狙いにいきました。負けはしましたが、ディフェンス面で、自分らしいプレーを出すことができたかなと思っています」

 その1カ月後、鳥海は初めて代表候補の合宿に召致されたのである。

11日、日本vs韓国(予選リーグ) シュートを放つ鳥海連志

11日、日本vs韓国(予選リーグ) シュートを放つ鳥海連志

先輩プレーヤーも認める能力の高さ

 鳥海は先天性の障がいが原因で、3歳の時に両脚をヒザ下から切断している。そのため、足の踏ん張りが効かない。だが、体の軸となる体幹に障がいはなく、自在に体を動かすことができる。もともとの身体能力が高いのもあって、チェアスキルは抜群だ。ボールを持った選手への素早いチェックや激しいプレッシャー、相手のパスコースを読んでのスチール、そしてドリブルと、チェアスキルを使ったプレーには定評がある。

 そんな鳥海が目指している選手は、同じ代表の先輩、豊島英と香西宏昭だ。
「豊島さんは、チェアスキルが高い。視野も広くて、相手との駆け引きが巧いんです。香西さんはスピードがあって、シュート力がある。そんな2人を掛け合わせたような選手を目指しています」

 鳥海とは兄弟のように親しく、持ち点*が同じ2.0の豊島は、後輩の能力の高さをこう語っている。
「16歳にして、これだけのプレーができるというのは単純にすごいなと思います。なかでも一番の魅力は、ほかの2.0選手にはないクイックネスな部分。スピードがあるので、ボールを持った選手にプレッシャーをかけるのが巧い。また、体幹を100%使うことができるので、当たりにも強い。ドリブルに関しては、今でも十分世界に通用していると思います」

 また、香西は鳥海が加入したことで、チームにいい影響をもたらしていると語る。
「チームの底上げができたのは、ひとつは連志が入ってきたことが大きかったなと感じています。持ち点が2.0にもかかわらず、あれだけ体幹が利く動きができるというのもそうですし、ほかの選手のいい刺激になっているということも、チームにとってはプラスに働いていると思います」

 今年5月、日本選手権でインタビューした際、鳥海は日本代表候補のひとりである自分に対して「こんな自分でいいのかな、と思ったりすることもあります」と語っていた。そんな彼が、今や日本には欠かすことのできないプレーヤーになりつつある。成長スピードの速さも、まさに天才的だ。

 さて、パラリンピックの切符をかけた戦いは、これからが本番である。予選プール残り3試合を終えれば、各プール上位4チーム、計8チームでの決勝トーナメントが待ち受けている。そんな中、鳥海への期待は膨らむばかりだ。活躍すればするほど、彼へのマークは厳しくなることは予想されるが、「チーム最年少として生き生きとしたアグレッシブなプレー」という本人の言葉通りの姿を見せてくれるに違いない。

 鳥海連志、16歳。彼のプレーには見る者を魅了する力がある。ぜひ、会場で見て欲しいプレーヤーのひとりだ。

(文・斎藤寿子)

*車椅子バスケットボールには、障がいの程度や状態によって各選手に「持ち点」があります。障がいの重い方から1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5の8つに分けられ、試合では5人の合計が14点以内と決められています。

鳥海連志(ちょうかい・れんし)
1999年2月2日、長崎県出身。先天性の上下肢障がいがあり、3歳の時に両脚を切断。中学1年時に車椅子バスケットボールを始め、現在では所属する佐世保バスケットボールクラブの主力として活躍している。2014年7月には九州代表として出場した全国ジュニア選抜大会で優勝の立役者となりMVPを獲得、のじぎく杯では長崎県選抜を準優勝に導いた。同年8月に日本代表候補合宿に初めて召致され、11月の北九州チャンピオンズカップで12名のメンバー入りを果たす。現在行われているアジアオセアニアチャンピオンシップでは、アグレッシブなプレーで活躍中だ。