updated 06/03/15
KanPara Press 〜感じるパラリンピック〜カンパラ
“超人列伝コラム”
〜トリノパラリンピック〜
(2006年3月11日〜19日)
小林 深雪
遠藤 隆行
シエーン フェルダー
カーリングイギリスチーム
新田 佳浩
東海 将彦
ブライアン マッキーバー
ビョンスタ ヘルゲ
鈴木 猛史
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パラリンピック超人列伝
文:隈元大吾 写真:越智貴雄
15日、男子10kmクロスカントリー。アクシデント前の新田選手の滑り=プラジェラート

 トリノに入る前、パラリンピック・ノルディックスキーチームを率いる荒井秀樹監督は「日本のエースは深雪と新田くんです」と言い切った。エースの片輪である小林深雪は競技初日、バイアスロン12.5kmにおいて自身がもっとも欲しかった金色のメダルを首にかけ、涙した。そして新田佳浩は15日、得意とするクラシカル10kmに満を持して臨んだ。だが、もう一方の雄が流した涙は、まったく違う色を放っていた。

 アクシデントが起きたのはスタートしておよそ1kmの地点だった。アウトからインにコースを変えるべくシュプールを移そうとした際に、板が重なり転倒した。右腕一本でストックを駆る新田は瞬時にバランスを立て直そうと試みるが、ストックが脇腹に入り負傷した。その後、一度は8位まで順位を上げるものの、最終的に13位でレースを終えた。

 「継続は力なり」が座右の銘である。1998年の長野大会でパラリンピック初出場を果たすと、続くソルトレークシティ大会では銅メダルを獲得した。だが実は2000年の世界選手権で初めて銅メダルを手にして以来、「燃え尽きたような感覚を抱いてしまい、一時はソルトレークに行かなくてもいいとまで思うほどモチベーションが下がった」と吐露する。

 そんな新田を世界の舞台に引き戻したのは、応援してくれる友人の存在だった。「ひとりでも応援してくれるひとがいるかぎり頑張ろうと思った。ソルトレークシティは、いろんなひとに支えてもらって、前向きに考えることを教わった大会です」前年の5月から本格的な練習メニューを組み、本番に向けてようやくねじを巻き直したうえでの銅メダルだった。

 ソルトレークシティ大会を終えると、彼はすぐに4年後を見据え、長期、そして中短期のトレーニングプランを立てた。2003年には世界選手権のクラシカル10kmで日本人初となる金メダルを獲得し、ついに頂点を手に入れた。初めて表彰台の真ん中に立ったこの時は、かつてのようなメンタリティとは違っていた。
「さらに欲が出てきたんです。2003年はパラリンピックを終えた次の年だったので、リフレッシュも兼ねて余裕をもってトレーニングしていた。それならもっと必死に練習すれば、ひとつの大会だけでなく、すべての大会で1位を獲れるかもしれない。シーズンの総合チャンピオンを視野に入れるようになったんです」

 その後、新田は昨年の世界選手権で2位に入るなど、実績に裏打ちされた自信を手にしていく。時間をかけた分だけ着実にステップアップを刻む、まさに「継続は力なり」という銘を、身をもって実現していた。

 4年前からつねに見据えてきたトリノパラリンピックを目前に控え、新田は「ライバルは自分自身」と力を込めた。
「ウェイトトレーニングの量を増やしたおかげでパワーがつき、ストライドが大きくなって勝負どころで力を出せるようになりました。肉体が変ったために理想のフォームに近づき、結果も残してきた。あとは自分に打ち克ち、持てる力を出し切るだけ」

 屈託のない笑顔と澱みない言葉は、海外のライバルたちからも愛されているという。だがそんな新田のトレードマークは、一瞬の出来事によってプラジェラートの雪に飲み込まれた。転倒直前、そして立ち上がった直後、ようやく辿り着いたゴールの瞬間、彼の目には何が映り、耳にはどんな声が届いていたのだろうか。ラインを越える本来ならば喜ばしいはずの瞬間も、その両足に力強さは見られない。両腕をスタッフに支えられメディカルセンターに連れて行かれる彼は、笑顔も言葉も、何もかもを失っていた。

 幸い、骨に異常はないと聞く。照準はすでに大会最終日のクラシカル20kmに絞られた様子だ。まだ持てる力は出し切っていない。そして挑戦もまだ、継続している。19日を万全な状態で迎えることは難しいかもしれないが、しかし笑顔と言葉だけは、ふたたび取り戻してほしい。

新田選手=2006ジャパンパラリンピックスキー競技大会で(2006年2月18日撮影)
Profile
新田 佳浩(にった・よしひろ)
立位(LW8)
1980年6月8日岡山県生まれ。小3からクロスカントリースキーを始め、高2で長野パラリンピックに出場。2002年ソルトレイクシティ大会ではクラシカル5kmで銅メダルを獲得。
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