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パラスポーツ海外事情

パラスポーツ海外事情

パラスポーツ海外事情 ~「誰もが参加できる」ドイツの車椅子バスケ~

ドイツの1部リーグ、ブンデスリーガの試合(撮影:越智貴雄)

ドイツの1部リーグ、ブンデスリーガの試合(撮影:越智貴雄)

 世界から代表レベルの選手が集まり、レベルの高いリーグ戦が繰り広げられているのが、ドイツの車椅子バスケットボールリーグ・ブンデスリーガだ。今シーズン、日本人選手も史上最多の6人が所属し、世界の強者たちとの激しい競争の中で、技術的にも精神的にもレベルアップを目指している。そのブンデスリーガのほか、ドイツ国内には4部のリーグがあり、車椅子バスケは男女や障がいの有無に関係なく、目的・環境・能力に応じて、「誰もが参加できるスポーツ」として盛んに行われている。そんなドイツの車椅子バスケ事情について、国際車椅子バスケットボール連盟(IWBF)会長のウルフ・メーレンス氏にインタビューした。

世界で最も大きなスポーツコミュニティ

―― 「障がい者スポーツ先進国」と言われるドイツでは、障がい者に対してはどのように考えられているのでしょうか?

 ドイツでは健常者と障がい者は「違う」という言い方をします。ただし、これは決してマイナスの意味でのものではありません。例えば、人種や宗教、性別などが異なるのと同じ意味合いで使用されています。一方で、近年において国は、健常者と障がい者は「ひとつに考える」という方針を打ち出しています。これまで長い間、そういう方向性の話は出てきてはいましたが、それが何かかたちとして実現するところまではいっていませんでした。しかし、2011年にようやく実現し、国が定めた規定において、例えば学校では障がいのある子どもも、障がいのない子どもも、同じクラスの中で生活をする。あるいは、会社の中でも障がいの有無に関係なく、同じフロアで仕事をするというふうに決められました。

―― 実際、ドイツでは現在、どれほどの障がい者がスポーツをしているのでしょうか?

ドイツには、約50万人の車椅子使用者がいますが、その中の(※1)約1万人がスポーツをしています。これは世界で一番大きなコミュニティであることから、ドイツはスポーツに対する意識が世界で一番強いと言えると思います。しかし、ドイツでもまだ大勢の人がスポーツをしていないという現状があります。将来的にはもっと多くの人にスポーツをしてほしいと願っています。

―― スポーツをしている割合が、世界でも最も大きいのはなぜでしょうか?

ドイツではリハビリテーションの施設がしっかりとしているからでしょう。例えば、事故に遇って、最初は入院をするわけですが、その後は施設に行ってリハビリをします。そのリハビリの一環にスポーツが入っているのです。スポーツをするにも、医療保険がきくので、自己負担しなくてもいい。これが(スポーツの導入に)とても大きなメリットになっていると思います。

国際車椅子バスケットボール連盟(IWBF)会長のウルフ・メーレンス氏(撮影:越智貴雄)

国際車椅子バスケットボール連盟(IWBF)会長のウルフ・メーレンス氏(撮影:越智貴雄)

健常者も参加できるソーシャル・コミュニケーションの場

―― 現在、ブンデスリーガでは多くの各国代表選手がプレーしていますが、いつ頃から海外から選手が集まるようになったのでしょうか?

バルセロナパラリンピック後、ブンデスリーガのボンとケルンのチームに1人ずつアメリカから選手を呼びよせました。それが、ドイツリーグで外国人選手がプレーした最初でした(※2)。余談ですが、そのうちの1人は、ドイツ人の女性に惚れ込んでしまって、アメリカに帰らずにドイツにとどまったんです(笑)。いずれにしても、それ以降、さまざまな国から選手が参加するようになり、今ではチームがスカウトしなくても、選手側の方から「ぜひ、ドイツでプレーしたい」とアプローチしてくるようになりました。

―― 現在、ブンデスリーガには6人の日本人選手が所属しています。

日本人選手が活躍してくれていることは、とても嬉しいことです。特に、(会長が住まいを構える)ハンブルクには日本を代表する3人の選手が所属していますが、彼らが長くハンブルクで活躍してくれることを期待しています。一番長くチームにいる香西(宏昭)は、とてもいいプレーヤーです。好感度も高いし、私としては、ぜひハンブルクにずっといてほしいのですが、ヨーロッパの各リーグのチームが狙っているでしょうね。

―― ドイツのリーグでは、健常者も参加することができるということが特徴のひとつとして挙げられます。

1993年に「ドイツ車椅子スポーツ連盟」に登録していた、ミュンヘンとフランクフルトの地域リーグの2チームで、健常者と障がい者が一緒にプレーできるかどうかを試してみたのが最初のきっかけでした。なぜ、そういうことが考えられたかというと、当然ですが、選手はひとりひとり違う人間です。それは障がいの有無に関係ありません。ですから、話し合わなければ、チームスポーツに不可欠なチームワークができないわけです。お互いにたくさん話をして、いい方向にもっていかなければいけません。それが、ソーシャル・コミュニケーションとしても大事なことだろうと考えたのです。

―― 現在、健常者の割合はどのくらいなのでしょうか?

ドイツには約180の車椅子バスケチームがあって、競技人口は約2500人です。その中で、ブンデスリーガには150人ほどの選手が所属していますが、健常者はそのうち約20人です。

イメージ写真(撮影:越智貴雄)

イメージ写真(撮影:越智貴雄)

2020年東京パラが今後のカギに

―― ブンデスリーガの1試合平均の観客数はどのくらいでしょうか?

試合によって異なりますが、200~300人いれば、結構多い方ですね。ただ、ランディールというチームはは人気が高く、2000人ほどの観客が入ります。

―― 現在、世界では何カ国で車椅子バスケが行われているのでしょうか?

アジア、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパと4つのゾーンに分かれていますが、全部で107カ国で行われています。

―― 車椅子バスケの魅力はどこにあると思われますか?

私が一番魅力に感じているのは、スポーツとしての観客の盛り上がり方です。見ていると、まるでサスペンスを読んでいるかのよう気持ちになるんです。

―― 2020年東京パラリンピックを控えている日本については、どのように感じられているでしょうか?

日本国内でも同じように考えられていると思いますが、2008年北京パラリンピックでの中国、2012年ロンドンパラリンピックでのイギリス、そして今年のリオデジャネイロパラリンピックでのブラジル同様に、日本で障がい者スポーツが一般の方にも広く伝わるには、2020年東京パラリンピックがとても大事なカギを握っていると思っています。

―― 具体的に、これから日本に必要なこととは何でしょうか?

小さな努力を積み重ねていけば、それがやがて大きく広がっていくはずです。さまざまな地域で、障がい者がスポーツを続けていく環境を整えること、そしてそれが世間に広げていくにはメディアの支えも大事だと思います。

―― 最後に、障がい者スポーツの一番の価値はどこにあるでしょうか?

スポーツは、障がいのある人たちにとって、社会との接点になります。なぜなら、コミュニケーションを図らなければ、スポーツはできないからです。それは障がいのあるなしに関係なく、スポーツを通してできることだと思います。

(聞き手・斎藤寿子、越智貴雄)

(※1)「ドイツ車椅子スポーツ連盟」の登録者は約7000人(「ドイツ障害者スポーツ連盟」統計資料より)
(※2)諸説あり。

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