updated 06/07/17

より高いパフォーマンス実現のために(後編)
トリノパラリンピックで金メダルを獲得した、日立システム所属の小林深雪(左)=トリノパラリンピック(撮影:越智貴雄)

 プロではないが、基本的に競技活動によって生活する選手形態としては、実業団チームに所属するケースもある。選手は企業名を背負って競技活動を行うことで宣伝や販売促進などの役割を担う。条件によっては多少の業務もこなしながら給料を得、遠征費や出張費、用具代なども経費として支給されるのが一般的だ。

 こうした実業団スポーツは、近年の経済低迷によってチーム数減少など逆風にさらされており、また障がい者スポーツを支援する企業はまだ少ない。そんななか、障がい者スキー部を2004年に創設し注目されているのが、株式会社日立システムアンドサービス(以下、日立システム)(東京都港区)だ。

 人事総務部長で、スキー部部長も兼務する新美雅文氏によれば、2000年に日立グループの2社と合併し、現社名に変更した日立システムは、「社員の一体感の強化と株主へのアピール」を目的として運動部の立ち上げを検討していた。そんな矢先、現監督の荒井秀樹氏との偶然の出会いもあり、スキー部創設が決まったという。

 部員は現在4人。先のトリノパラリンピックで活躍した小林深雪選手、太田渉子選手、長田弘幸選手の3人に、新入社員の近藤さつき選手が今年4月に加わった。太田選手はまだ高校生のためジュニア部員扱いだが、他の3人はそれぞれ社員として業務もこなしながら、競技活動全般の支援を受けている。さらに荒井監督も人事総務部所属の社員であり、小林選手のガイドランナー小林卓司氏も、社員ではないが小林選手支援の一環として遠征費などを日立システムが負担している。

 競技活動の支援を行う代わりに日立システムが選手に求めることは第一に、国内外の大会で好成績を収めること。具体的な順位やタイムまでは指定しないが、選手の活躍によって知名度を上げ、企業イメージの向上を期待してのことだ。

 実際、小林選手の金メダル獲得などトリノ大会での活躍は会社のイメージアップはもとより、副産物も生んだ。創部まもない開催だったトリノは当初、準備と捉えていたが、予想を超える好成績に、「期待以上の成果があった。彼らの努力や挑戦する姿勢は社員を強く勇気づけたし、一丸となった応援は社員の一体感の醸成に多いに役立った」と、新美部長は振り返る。

 だが、運動部の所有はメリットばかりではない。まず、費用がかかる。また、いつも好結果が出る保証はないし、故障やスランプのリスクもあり、障害をもつ選手の中には障害の進行の心配もある。また、プロ契約とは異なるため、社員選手の現役引退後の受け皿=セカンドキャリアについても考えておく必要がある。また、費用対効果も計りにくいため、企業の業績や景気の悪化で縮小や廃止されるチームも多い。チーム運営には企業としての責任と覚悟と明確なビジョンが不可欠なのだ。

 トリノでの活躍でスポーツ支援のメリットを実感している日立システムでも、現時点では部員増員や種目拡大の計画はなく、地に足のついた運営を心がけているという。「何よりも継続が必要だと思う。少数精鋭で大切に育て、『障がい者スキーの日立システム』と言われるように知名度を高めていきたい」と新美部長。
 さらに引退後の社員活用については、「障害の進行など不安材料がないわけではないが、厳しいトレーニングをこなしてきた選手たちは精神的にも強く、活躍の場はきっとある。たとえば、障害当事者としての競技生活は特別なキャリア。貴重な体験を指導者として生かす道も今後一緒に探っていけたら」と話す。

 とはいえ、日立システムのような取り組みはまだ珍しいのが現状だ。選手のより高いパフォーマンスを実現し、障がい者スポーツ全体の普及や底上げを図るには一部の取り組みだけでは難しい。より多くの企業が意義を見出し、選手を経済的に支えることが望まれる。と同時に、世界の競技レベルが今後さらに上がっていくと予想される今こそ、企業任せだけでなく行政や地域も一体となった支援体制作りを真剣に考えるべき時なのではないだろうか。 

≪了≫

【文・星野恭子】


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