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生き生きした笑顔のために(後編) 義肢装具士・臼井二美男氏
第一の課題は、「いかに心の壁を取り去り、スポーツへと興味を持たせるか」だという。失望感でいっぱいの切断障害者に、何かを始める前向きな意欲を持たせることは容易ではない。すべてに対して諦めの境地を抱く人が圧倒的からだ。たとえば、2004年アテネ・パラリンピック大会に出場したハイジャンパー鈴木徹さんもそんな一人だったと臼井さんは振り返る。 彼が交通事故で足を失ったのは高校時代。切断直後は周囲も腫れ物に触るように接していたという。もともとハンドボール選手だった彼にスポーツへの興味を復活させたいと願った臼井さんは、百聞は一見にしかずだと、義足アスリートの走りを見学させようと彼を病院から連れ出す。力強く地面を蹴るアスリートの姿に、「自分もやればできるはず」という勇気を得た鈴木さんは、数ヵ月後にはグラウンドに立っていたという。
「若ければ若いなりに世間知らずだったりするし、学校や仕事など不安も多い。そういうこともまとめて一緒に考えて、前向きな方向に導いてあげることが大事。そうじゃないと、スポーツも長続きしない」。義足という物理的な支えだけでなく、精神的な支えにもなるべく、「寄り添う気持ちが必要だ」と臼井さんは話す。 義足に関する課題もまだ多い。関係者の努力もあり、日本の製品もすでに、素材や形状など製作技術面ではかなり高いレベルにあるというが、それでもまだ、義肢製作の歴史が長い欧米製から学ぶ点も多い。臼井さんは海外に遠征にいく選手やコーチに写真やビデオ撮影を依頼し、より快適で身体能力を最大限に引き出せるような義足の開発のため、日々、研究に余念がない。 そんな臼井さんが今後、さらなる改良を目指したいというのが、使い手の脳からの指示を、より正確に迅速に義肢に伝達する"筋伝力"とでもいうべき機能だ。1分1秒を争うスポーツの世界では、一瞬の判断ミス、反応ミスは致命傷だ。「脳が指示したタイミングより義肢の動きが遅かったり、力が弱かったりではダメ。本当の意味で、身体の一部だと思えるような義足にしなければ」 また、障害者スポーツの競技レベルが年々向上している今、選手のトレーニングに関する課題も表面化している。トレーニングといえば、以前は健足側の筋力向上が主だったが、現在は義足のエネルギーを最大限引き出せるように患足側の強化を重視する方向へと変化しつつあるという。だが問題は、義足の知識を持ち合わせたトレーナーが不足していること。そのため、義足を装着しながらの的確なトレーニング方法が指導できず、レベルアップが進みにくいのが現状だという。 経済面での課題も深刻だ。スポーツ義足は消耗も激しく、一つ作れば終わりではない。また、筋力トレーニングによって断端の形状も日々変わるので、接合部にストレスがないよう微調整を含めたアフターケアも常に必要だ。が、行政による公的支援の範囲は日常生活に必要な常用義足が基本であり、自己負担となるスポーツ義足は企業や義肢製作所の支援に頼らねばならないのが現状で、その支援社(者)数も大幅に不足している。切断障害者にスポーツを普及させるには、行政や企業による支援の強化が必須だと臼井さんは訴える。
このように課題の多い現状を踏まえながら、臼井さんはかみしめるように語る。「義足によって走れることで、自信がつき、前向きになれる。人の気持ちまで変えられる『モノ』を作り出すなんて仕事、他にはないのではないか。義肢製作という仕事にめぐりあえたことに心から感謝しています。それだけに、『義足に関しては任せろ』と選手たちには言ってあげたい。そんな体制や環境づくりを作っていきたいですね」。臼井さん自身もまた、日々走っている。 ≪了≫ 【文・星野恭子】
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