カンパラプレス

コラム

コラム

連載コラム 第4回「リオ出場への軌跡」車椅子バスケ

車椅子バスケ連載写真1

◆ “本当に勝つべき時”を見据えた采配

 及川晋平ヘッドコーチ(HC)が率いる車椅子バスケットボール男子日本代表。彼らにとって忘れることのできない、いや忘れてはいけない戦いがある。2014年10月24日、アジアパラ競技大会最終日に行われた韓国との決勝だ。その2日前、2008年以来一度も勝つことができなかったイランに逆転勝ちし、チームは勢いに乗っていた。選手の誰一人、日本の優勝を疑う者はいなかったに違いない。
 正午、“アジア王者”を決めるファイナルが始まった――。

◆ 試合を左右した“3分間”

 スタートは両者とも一歩も譲らない激しい攻防が繰り広げられた。韓国がアウトサイドからシュートを決めれば、エース香西宏昭がミドルシュートで応酬。またエースでキャプテンの藤本怜央がゴール下を攻めれば、韓国もカットインプレーでゴール下に切り込みシュートを決める。まさに一進一退。第1クオーター残り3分の時点で、日本が1点ビハインドの12-13と拮抗していた。

 ところが、ここからの3分間が最後まで日本を苦しめることになる。
スリーポイントなど高い確率でシュートを決め、9得点を挙げた韓国に対し、日本はパスミスで自らチャンスをつぶすなどして攻撃のリズムに狂いが生じ、得点はフリースロー1本にとどまった。13-22。韓国との差は9点にまで広がってしまった。

 続く第2クオーターは、お互いにシュートが入らず、試合は停滞気味となる。韓国にも第1クオーター終盤ほどの勢いはなかった。日本としては、この間に流れを引き寄せたいところだったが、それは叶わなかった。ともにほとんどスコアは動かず、20-30と韓国10点リードで試合を折り返した。

 「相手がどうというよりも、自分たちがいかに精度の高いプレーができるかどうか」
 試合前、及川HCも藤本も、そう口を揃えていた。前半はその“精度の高いプレー”が影を潜め、思うようにいかずに苦しい時間帯が続いた。

 だが、前半を終えた時点で、及川HCの中に焦りはなかったという。それは、ある“プラン”が予定通りに進められていたからだった。
 「前半はミスが多かったので、リードするのは難しかった。だからこそ、後半が勝負になるだろうと思っていました。そういう意味では、前半になるべく多くの選手を起用して、主力に余力を残した状態で後半に入るというわれわれのプランは間違ってはいないと考えていたんです」

 同年7月の世界選手権での敗戦を機に“主力頼り”から“全員バスケ”へとチーム作りを進めてきた日本。アジパラはその“初舞台”だった。既に準決勝のイラン戦では、その選択が正しかったことが証明されていた。前半に全員を起用することによって主力の負担を軽減し、勝負どころで主力が力を発揮。延長戦の末に逆転勝ちを収めていた。韓国との決勝でも、そのプランが遂行されていたのだ。

◆ 選手への信頼が“全員バスケ”に

 第3クオーターの序盤、エース藤本がターンオーバーを犯して相手に得点を許してしまう。藤本には珍しいミスだった。ここで失点が続けば、完全に韓国に試合の主導権を握られる。そのことを最も感じ取っていたのは、藤本本人だったに違いない。そうはさせまいと、相手のファウルで得たフリースローを2本とも入れると、さらに立て続けにミドルシュートを決めて、最大12点あった韓国との得点差を6点にまで縮めた。徐々に日本に流れが行き始めていた。

 「やはり、自分たちには逆転するだけの力がある」
 藤本が奮起する姿に、及川HCはそう再確認していた。そして残り2分、ここで指揮官はあえてカードを切った。香西を除く主力4人を下げ、ベンチメンバーを投入し、新たなユニット(コート上の5人の組み合わせ)をぶつけたのだ。それは主力に余力を残し、第4クオーターでの逆転を見据えてのことだった。

 しかし、そのユニットに与えられた約2分間、日本は無得点に終わり、逆に韓国に追加点を許した。韓国のリードは再び2ケタに広がった。そして第4クオーター、日本は主力を出して追い上げを図ったものの、韓国との差を縮めることはできなかった。“全員バスケ”へと舵を切って、わずか3カ月。チーム作りはまだ途中段階にあった。

 50-61。これで韓国戦3連敗。しかも1~2点差と接戦だった過去2敗とは異なり、2ケタ差は完全なる負けだった。もちろん、日本は優勝を狙っていた。ましてや連敗を喫している韓国に、これ以上負けるわけるわけにはいかない、という気持ちがあったはずだ。

日本vs韓国の決勝戦後=アジアパラ競技大会(撮影:越智貴雄)

日本vs韓国の決勝戦後=アジアパラ競技大会(撮影:越智貴雄)

 その一方で、指揮官は先を見据えてもいたのではなかったか。本当に勝つべき時は、1年後のリオの予選。勝ちにこだわりながらも、冷静にそのことを考えていたのではないだろうか。決勝後、藤本の連続得点で日本が波に乗りかけた第3クオーター、あえてベンチメンバーを投入した理由を尋ねると、及川HCはこう答えている。

 「主力のみで戦っている韓国のように、藤本、香西をフル出場させれば、勝つことはできたかもしれません。でも、それではベンチメンバーが強くならない。主力だけでは世界のトップとは戦えないことは、世界選手権で明らかとなった。この先、日本が強くなるには、今は苦しくても選手を信じて使い続けることが大事だと私は思っています」

 この時の先を見据えた采配が、1年後、実を結ぶことになる――。

(第5回につづく)

連載コラム 第5回 〜スーパールーキー鳥海連志の出現

page top