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連載コラム 第5回「リオ出場への軌跡」車椅子バスケ

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◆ スーパールーキー鳥海連志(ちょうかい・れんし)の出現

 2014年、日本車椅子バスケットボール男子日本代表は世界選手権とアジアパラ競技大会で韓国に3連敗を喫した。翌2015年にはリオデジャネイロ・パラリンピックの出場権が懸かったアジアオセアニアチャンピオンシップが控えていた。オーストラリア、イランという強豪がいる中、出場権を獲得できる上位3位カ国に入るには、韓国に負けるわけにはいかなかった。チームのレベルアップが必要とされていたことは言うまでもない。そんな中、一人の若手が台頭してきた。高校生ルーキー鳥海連志である。

◆ 指揮官の目に留まった才能

 鳥海が初めて日本代表候補の強化合宿に招致されたのは、2014年8月、彼はまだ高校1年生だっだ。その年の5月、ようやく初めて日本選手権への出場をかなえた鳥海にとって、「日本代表」や「パラリンピック」という世界は遠い存在だった。

 彼が代表候補の一員となったきっかけは、合宿1カ月前の7月に行われた「のじぎく杯」での活躍だった。同大会で、鳥海は長崎県選抜の一員として出場し、決勝に進出した。そこで対戦したのが、日本代表の指揮官でもある及川晋平ヘッドコーチ(HC)が率いるNO EXCUSE(東京)だった。結果は58-44で、NO EXCUSEが優勝。だが、決勝での鳥海のプレーは、及川HCの心を動かすのに十分だった。

 「鳥海のディフェンスは抜群でした。プレッシャーのかけ方がうまく、こちらに思うようにプレーさせませんでしたし、積極的にスチールを狙って攻撃につなげていました。以前から彼のことは知っていて、いい選手だなとは思っていました。でも、改めて“これほど高い能力を持った選手なんだな”と分かったんです」
 その後、鳥海は強化合宿の常連メンバーとなった。

 国内のトップ選手たちが集結する代表候補の中には、ドイツのブンデスリーガ―でプロとして活躍する選手もいる。そこで求められるものは、世界に通用する心・技・体。しかし当時はまだ、鳥海のプレーは粗削りな部分が多くあった。ただ、彼の成長速度は及川HCが「天才的」と言うほど並外れていた。合宿に招致されるたびに、彼のプレーには正確さが増していった。20人ほどいる代表候補の中でのポジションも徐々に確立され、強化合宿に呼ばれ始めて半年、2015年に入ると、海外遠征メンバーにも選出されるようになっていった。

 それは、決して「将来を見据えて」のものではなかった。及川HCはこう語っている。
 「私は鳥海をホープだとは思っていません。既に彼は国内トップクラスの選手。即戦力として期待しているんです」
 その指揮官の期待を、鳥海は裏切らなかった。

(撮影:越智貴雄)

(撮影:越智貴雄)

◆ “即戦力”としての存在

 選考を兼ねて行われた強化合宿や海外遠征を経て、2015年10月、鳥海はアジアオセアニアチャンピオンシップに出場する12人の日本代表入りを果たした。鳥海にとって、公式戦としては初めての国際大会の舞台。遠征では海外選手相手にも、全くひるむことなく強心臓ぶりを発揮してきた鳥海だったが、さすがに緊張したのだろう。初戦のタイ戦では、第1クオーター途中から出場したものの、動きに硬さが見られた。

 しかし、スタートから出場した第2クオーターでは、いつものキレのある動きが戻っていた。縦横無尽に駆け回る鳥海に、観客の目は奪われていたに違いない。鳥海が相手の隙を突くスチールでボールを奪い、自らドリブルで上がってレイアップシュートを決めると、スタンドから大歓声が上がった。3000人超の観客の目は、12人のメンバーでただ一人、10代の若きプレーヤーに注がれていた。

 そして第2戦、鳥海のさらなる実力が発揮された。タイに80-59で勝利し、白星スタートを切った日本は、翌日、予選プールで最大の難関とされた韓国戦に臨んだ。前年の2014年に3戦全敗を喫した相手に、果たして勝機を見いだすことができるのかに注目が集まっていた。

 第1クオーター、前半で2-8とリードを許した日本は、ここで鳥海を投入。すると約3分間、韓国の得点がピタリと止んだ。鳥海の素早く、執拗なプレスディフェンスに相手は思い通りの攻撃ができずに苦しんでいた。結局、後半の5分間で10点を挙げた日本に対し、韓国はわずか4点。12-12の同点で第1クオーターを終えた。

 第2クオーターで5点、第3クオーターで2点と、韓国にリードを許したものの、内容的には互角の戦い。緊迫した雰囲気で第4クオーターを迎えた。そしてこの大事な場面で、及川HCは鳥海をスタートから起用した。いかに韓国相手に彼のプレーが機能していたか、そして指揮官から頼りにされていたかが分かる。

 鳥海の積極的なディフェンスの効果もあり、第1クオーターからほぼ同じメンバーで戦う韓国は疲労を隠し切れずに攻撃力が低下。逆に頻繁に選手を交代させ、主力メンバーの体力を温存してきた日本には余力があった。第4クオーターはこうした選手起用の違いが、そのままスコアに表れた。
 55-48。日本は見事に逆転勝利を収めた。

 この試合の鳥海の出場時間は、スターティングメンバーである香西宏昭(36分36秒)、藤本怜央(35秒02秒)、千脇貢(24分41秒)に次いで4番目に多い24分41秒。指揮官の期待通り、鳥海は「即戦力」として韓国戦の勝利に貢献した。

 日本代表候補のメンバーに入って、わずか1年。鳥海は日本にとって欠かすことのできない存在となっていた。

(第6回につづく)

連載コラム 第6回 〜まさかの敗戦にも揺るがなかった結束力

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