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車椅子バスケ男子U23世界選手権 観戦記

8カ月前には想像できなかった「世界ベスト4」 ~車椅子バスケ男子U23世界選手権観戦記4~

U23日本代表メンバー

U23日本代表メンバー

 16日(現地時間)、9日間にわたって熱戦が繰り広げられた「世界一頂上決戦」の幕が閉じた。日本は3位決定戦でオーストラリアに前半リードしながら、後半に逆転を喫し、3大会ぶりのメダル獲得には至らなかった。決勝ではイギリスがトルコを破り、初優勝。トルコも初めてのメダル獲得となった。

赤石、「守備力」でベンチから主力へ

 決勝後に行なわれた表彰式、最終日まで残った4チームの中で唯一、4位の日本だけが除かれていた光景に、何とも言えない寂しさと悔しさが募った。しかし、「バスケットボール」という競技において、「世界ベスト4」という結果は、考えてみれば、ものすごい快挙だ。そして、ふと思った。「悔しいと思ってしまうのは、それだけ彼らが成長したという証なのではないか」と。8カ月前の私には、この悔しさは想像することができなかったに違いない。

 京谷和幸HC率いるU23日本代表チームを初めて見たのは、昨年11月の北九州チャンピオンズカップだった。オーバーエイジ4人を含んだチームは全勝し、優勝こそしたものの、正直な感想を言えば、「果たして来年の6月、世界と戦うことができるのだろうか……」という不安要素の方が大きかった。当時からキャプテン古澤拓也と、チームで唯一のリオデジャネイロパラリンピック日本代表の鳥海連志という2枚看板はあったものの、それだけで勝てるとはとても思えなかった。「これで勝負する」というチームの強みが全く見えなかったのだ。

 ところが、今年1月、タイ・バンコクで行なわれたアジアオセアニア予選(AOZ)で目にしたのは、トランジションの速さとクイックネスを武器とする「守備力」だった。高さのあるハイポインターをゴールに近づけさせないための、高い位置からのプレスディフェンスが機能し、予選ではイラン、オーストラリア、タイなどの強豪国を次々と撃破し、全勝。銀メダルを獲得した。

 この時、台頭したのが赤石竜我だ。北九州ではメンバーには入っておらず、AOZで初めて日本代表のユニフォームに袖を通した赤石は、最初はベンチを温めることがほとんどだった。ところが、試合を重ねていくにつれて、赤石の出場時間はみるみるうちに増えていき、最終的には主力の一人となっていたのだ。少ない出場時間の中でも光っていた赤石の守備力が買われ、戦力としての価値が見出されたのだ。

 赤石は言う。
「もともと守備には自信がありましたが、初めての国際大会だったAOZで京谷さんに使ってもらって、『やっぱり自信を持っていいんだな』と再確認することができました。あの時から、『ディフェンス面では自分がチームを引っ張っていこう』という気持ちでやってきました」

それぞれの成長を遂げ、世界選手権へ

 一方、そのAOZで悔しい思いをしたのが、寺内一真だった。彼はチーム一の高さを持つハイポインター。本来なら、ゴール下のシュートやリバウンドで強さを発揮しなければならないポジションにある。だが、AOZの時の寺内にはまだその強さがなかった。すると、イランとの決勝で、寺内は赤石と交替させられた。高さのある相手に対し、日本の布陣には他にハイポインターが不在の中、持ち点が4.5の寺内にとって、同じハイポインターとではなく、2.5の赤石との交替は、自らの力不足を明確にした出来事と言えた。しかも、大事な4Qで寺内はベンチを温め続け、3.0以下の持ち点の選手たちだけで高さのあるイランと勝負しなければならないチームメイトを見守るしかできなかった。

「あの時は、本当に悔しかったです。体も疲れていなくて、まだまだ自分はできるのに、と思いながら、見ていることしかできませんでした」と寺内は言う。

 その彼に変化が見えたのは、5月のドバイ遠征だった。柱である古澤、鳥海ら4人のA代表強化指定選手が合宿のために不在だったこの遠征で、積極的にゴール下に入ってシュートを決める寺内の姿があった。さらに、ゴール下で勝負することによって得られたフリースローでも高確率をマークし、トレーニングを積んできた成果が見受けられた。

 また、このドバイ遠征では、丸山弘毅も覚醒した一人だ。スピードを武器とする丸山が得意としているのはカットインプレーだが、ドバイではミドルシュートがさえにさえわたり、彼の武器が一つ加わったのだ。

 そして、チームにとって不可欠な存在である古澤と鳥海もまた、A代表の合宿などで磨きをかけ、AOZの時に課題として挙げていた「シュートの確率」を確実に高めてきていた。古澤のスリーポイント、そして鳥海の左からのバンクショットは、日本の大きな武器と化していたことは間違いなかった。そのほか、川原凛が決めるミドルシュートも、より安定して入るようになっていた。

オールスター5に古澤と鳥海

 こうして、それぞれが成長を遂げ、明確な役割と武器をもって臨んだ世界選手権。日本は「世界ベスト4」に躍り出た。おそらく下馬評では、もっと低かっただろう。体のサイズだけを見れば、どのチームよりも小さい日本が、まさかベスト4に入るとは想像できなかったはずだ。

 U23世界選手権での日本の成績は2009年が6位、2013年が9位。そして、パラリンピックにおいては2大会連続で9位に終わっている日本男子の車椅子バスケ界において、メダル争いに食い込んだこと自体が「快挙」以外のなにものでもなく、称賛すべき結果だ。

 しかし、私は思う。「よくやった」では終わらせてほしくないと。あと一歩のところでメダルを逃したことは紛れもない事実。3位決定戦では14点差あった前半のリードを守り切れなかったのは、あまりにも悔しい。

 8カ月前なら、こんなことは言わなかっただろう。だが、こんなふうに厳しいことを言いたくなるだけのチームになった。それだけ期待の持てるチームへと変貌を遂げたと言える。

 オールスター5には古澤と鳥海の2人が選出された。日本人プレーヤーの質の高さが世界に認められた何よりの証だ。そして、「ベスト4」という結果は、日本のスピードとクイックネスが世界に通用することを十分に証明したと言える。今回のU23日本代表の「成長」と「功績」は、日本男子の車椅子バスケ界にとって、大きな「財産」となるはずだ。

(文/写真・斎藤寿子)

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「ベスト4」進出!日本を支えた「闘争心」 ~車椅子バスケ男子U23世界選手権観戦記3~

準々決勝で復活の兆しが見えた丸山

準々決勝で復活の兆しが見えた丸山

 14日(現地時間)、カナダ・トロントで行われている「IWBF車椅子バスケットボール男子U23世界選手権」は、決勝トーナメントがスタート。準々決勝で地元カナダと対戦した日本は、第4Qの後半に引き離し、58-45で勝利。準決勝進出となり、チームが目標としてきた「5位」を上回る結果となることが決定した。そんな中、これまでチームの快進撃とは裏腹に、ただ一人、その波に乗り切れない選手がいた。スタメンの一人、丸山弘毅だ。その丸山にも、ようやく復活の兆しが見えたのが、この試合だった。

さらにチームいちの得点源で

「前半のディフェンスに関しては、合格点をあげたいと思います」
 京谷和幸HCの言葉通り、日本のオールコートでのプレスディフェンスは、確かに機能していた。強くて速い日本のディフェンスに対し、カナダはボール運びに苦戦。さらにチームいちの得点源で、スリーポインターシューターでもあるエースにほとんど仕事をさせなかったことが大きかった。特に第2Qは、カナダの得点をわずか3失点に抑え、ディフェンスの強さを示した。

 しかし、正直に言えば、前半を終えた時点での私の感想は「内容的には納得していないのでは」というものだった。というのも、オフェンスでのミスが少なくなく、第1Qの途中には約4分もの間、日本のアウトサイドからのシュートがことごとくリングから嫌われ続けていたからだ。

「カナダのシュートの確率の悪さに助けられている部分もある」
 それが、率直な感想だった。

 しかし、チームの感触は決して悪くはなかったという。何よりもディフェンスを重視してきたチームが、まず評価を下すべき対象は、やはり「ディフェンス」にあったのだ。日本らしい粘り強いディフェンスができているかどうか。彼らは、その一点に集中していた。

 まだまだ発展途上のジュニア世代だからこそ、あれもこれもと欲張らずに、とにかくディフェンスに突破口を見出し、チーム作りを行なってきたU23。それこそが、これまでの快進撃を生み出してきたことを改めて感じた。

「ディフェンスはしっかりとできているのだから、自信を持っていこう」
 ハーフタイムで京谷和幸HCはそう言って、選手を送り出したという。負ければ終わりの決勝トーナメントに入っても、京谷HCの言葉に一切のブレはなかった。だからこそ、選手たちもまたブレることはなかった。「ディフェンスで勝つ」。誰もが、それだけに集中していた。

 シーソーゲームとなった第3Qも、なんとか凌ぎ切り、リードしたまま第4Qへ。その後半、チームに流れを引き寄せたのが、キャプテン古澤拓也だった。42-40と2点差に迫られ、日本にとってはピンチの時間帯、古澤はインサイドに切り込み、レイアップシュートを決めると、さらにバスケットカウントとし、フリースローも見事に決めてみせた。そして、得意のスリーポイントも決め、チームに勢いをもたらした。

 これで、完全に日本が試合の主導権を握り、終わってみれば58-45と2ケタ差での勝利となった。

「ガツガツプレー」で見えた復活の兆し

 今日の勝因について、京谷HCが挙げたのは「闘争心」だった。
「ディフェンスに一番必要なのは、闘争心。今日は、それを選手たちが40分間継続してやり続けてくれた」

 その闘争心で、ようやく復活の兆しを見せ始めたのが、主力の一人、丸山だ。第4Qも終盤にさしかかると、積極的にリバウンドやパスカットを狙う丸山の姿があった。それは、これまでの自分を払拭するかのような躍動感のあるプレーだった。

 彼が実力を発揮することができず、ひとしきり悩んでいたことは誰の目からも明らかだった。初戦から彼の中の歯車は全くと言っていいほどかみ合っていなかった。最も得意とするカットインプレーは影を潜め、さらに5月のドバイ遠征で成長の跡を見せていたミドルシュートも、好調とは言えなかった。

 そして、日本が最も重視しているディフェンスにおいては、何度も相手に破られ、失点につながることも少なくなかった。そのたびに、ベンチからは京谷和幸HCの怒号が鳴り響いていた。

 それでも京谷HCは、丸山をスタメンで使い続けてきた。その期待に応えたいと思えば思うほど、焦りが募り、丸山は暗いトンネルから抜け出せずにいた。

「予選では、何に悩んでいるのかもわからなくなるくらいになっていました。それでもスタメンで使っていただいて、だからこそ『やらなければいけない』という気持ちばかりが出てきてしまって……」

 これまで何度も京谷HCや古澤と話をし、なんとか自分のプレーを取り戻したいともがき続けてきた丸山。この日の試合の途中、ふと思い出したことがあった。それは、今年1月、準優勝したアジアオセアニア予選のことだ。

「あの時の自分はどうだったかな、とふと思ったんです。そしたら、闘争心をむき出しに、ガツガツいっていたなと。それで、積極的にリバウンドやパスカットにいこうと思ったんです」

 京谷HCも、丸山のプレーに「ようやく彼の闘争本能が出てきていたように思います。明日以降も期待したいですね」と、安堵の表情を浮かべていた。

 明日の準決勝で、日本はイギリスと対戦する。イギリスは優勝候補のひとつであることは間違いなく、厳しい試合となることが予想される。だが、日本はどこが相手でもやることは変わらない。

 ただひとつ、「ディフェンスで勝つ」だ。

(文/写真・斎藤寿子)

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VOL.2再確認した欧州勢以上の「守備力」

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 試合開始早々、日本は武器とするプレスディフェンスで、ドイツに襲い掛かった。まさにそれは「突撃」のごとく、迫力満点!日本の当たりの強さ、切り返しの速さ、そして粘り強さに、ドイツは明らかに苦戦していた。しかし、その様子を見て、私は自分の「見る目の無さ」を痛感していた。と同時に、「これほどまでに日本のディフェンスはレベルが高いのか」と感動を覚えていた――。

日本の武器で高さに対抗したドイツ戦

 12日、予選プール最終戦のドイツ戦、日本は58-72で敗れた。だが、この試合で何より感じたのは「日本の強さ」だった。常にコートにはビックマンが2人いるドイツの布陣に対し、日本はいかにそのビックマンたちをゴールへと近づけさせないかが、この試合の最大のカギを握っていた。

 そこで日本はオールコートでのプレスディフェンスをしき、ボールマンへはもちろん、一人ひとりが強く速くプレッシャーをかけていった。それがしっかりと機能し、前半はドイツにゴール下を攻められているという印象はあまり感じられなかった。

 それは、2日前に私が予想していたものとは違っていた光景だった――。

 10日、日本と同じプールで「予選トップ通過」を狙うドイツとイギリスの試合を観戦した。高さのあるドイツに対し、イギリスも日本と同様に前半はプレスディフェンスをしかけていた。しかし、ドイツのビックマンたちは体の大きさに似合わず動きが俊敏で、スルスルとイギリスのディフェンス網は破られ、ゴール下に入られてしまっていた。

 すると、イギリスは後半、ディフェンスラインをぐっと下げてきた。それが功を奏し、イギリスは逆転勝ちをしたのだ。その時、私は「ドイツは高さだけでなく、スピードもある。日本もディフェンスを下げた方がいいのかもしれない」という感想を抱いていた。

 ところが、今日のドイツ戦では、しっかりと日本のプレスが効いていた。イギリス戦で感じたような速さは、今日のドイツにはほとんど感じられなかった。いかに日本のディフェンスのレベルが高いか、ということが目の前で証明されていたのだ。スピードのみならず、ファウルをすることなく相手の動きを止める技術が、日本にはある。そのことを改めて感じていた。

 そのディフェンスの甲斐あって、日本は前半、引き離されかけそうになりながらも、キャプテン古澤拓也、鳥海連志、川原凛といったA代表の強化指定選手らが、「ここぞ」という時にミドルシュートを決め、くらいついていった。

 第1Q18-18。第2Q34-34。どちらも一歩も引かない、がっぷり四つの試合展開。まさに手に汗握る試合となり、本当に一瞬たりとも目が離せない状況が続いた。

勝敗をわけるフリースローの重要性

 しかし、後半に入ってドイツが徐々にリードを広げ、結果的には、58-72というスコアに終わった。実力的にはこれほど差が開くような試合ではなかったはずだ。

 敗因は明らかだった。自分たちの「ミス」から崩れていったのだ。「競り合って、緊迫した中でのミスは、一番はやってはいけないこと。日本の一番の弱さが出てしまった」と京谷和幸HC。特に第4Qの終盤、日本にとってはあまりにも痛恨のパスミスやイージーショットを落とすなどのシーンが続き、逆に相手に得点のチャンスを与えてしまった。

 そして、もう一つ、前半から気になっていたのが、フリースローの確率だった。今日の試合、日本が得たフリースローは12本。そのうち決まったのは3本だった。一方、ドイツは10本中6本を決めている。特にドイツが試合の流れを引き寄せ始めた第3Qでは、4本のフリースローをすべて決めている。一方、日本は第1Qの最後に3本のフリースローをすべて落とし、同点に終わった。こうした差が、勝敗を分ける要因のひとつとなったことは否めない。

 バスケットボールという競技を知れば知るほど、フリースローの1本1本がいかに重いものであるかということを思い知らされる。もちろん、やっている選手たちこそ感じているはずだ。いかに修正してこれるかが、決勝トーナメントを戦ううえでの重要なポイントのひとつとなるのではないだろうか。

 それにしても、と思ったのは、京谷HCという指揮官の人間性だ。彼の言葉には、いつも選手の成長を願う愛情と、そして責任感の強さがあふれている。試合に勝てば「やっているのは選手たちで、自分はただの飾りだから」と選手をたて、負けた時には「すべては自分の責任」と選手をかばう。

 よく「バスケットボールでは1ケタ差での敗戦は指揮官の責任」ということを耳にするが、京谷HCは点差にかかわらず、責任を口にする。今日の敗戦も、「選手どうこうではない。自分のミスで負けた」と、自らの責任について語っていた。

 そんな京谷HCは、自他ともに認める「大の負けず嫌い」。5月の日本選手権で行われた壮行会では、「まずは5位を目指していきます」と語っていた京谷HCだが、「負けることが大嫌い」である彼が、それで終わるつもりではないことは、今日のこんな言葉からも明らかだ。

「自分たちはあと3試合やるつもりです」

 これは、次の地元カナダとの準々決勝に勝って、日本にとっては3大会ぶりとなるメダル獲得を狙うという意思の表れにほかならない。もちろん、選手たちも同じ気持ちだ。キャプテンの古澤は「メダルを狙いにいくということだけに集中していきます」と語っている。

「ディフェンスで世界に勝つ」
 今年1月のアジアオセアニア予選から目指し続けてきたチームの目標。その到達点は、もうすぐそこまで来ている。

(文/写真・斎藤寿子)

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VOL.1 カギ握る「エース以外」の成長

予選プール第4戦でアメリカと対戦した日本(撮影:斎藤寿子)

予選プール第4戦でアメリカと対戦した日本(撮影:斎藤寿子)

8日(現地時間)に、カナダ・トロントで開幕した「IWBF男子U23車椅子バスケットボール世界選手権」。日本が初めて出場したのは、2005年。当時のチームには現在、「ダブルエース」と称される藤本怜央、香西宏昭らがおり、準優勝に輝いている。各国の将来を担うジュニア世代にとって、重要な「4年に一度の大会」だ。
11日、日本は予選プール第4戦でアメリカと対戦し、64-57で勝利。これで、無傷の4連勝となった。

HCのひと言で「らしさ」を取り戻した熊谷

「よし!ついにきた!」と、今日の試合で思わずガッツポーズをしてしまったのは、第3Qの最後、アメリカの追い上げムードを払しょくするかのように、鮮やかに決まった熊谷悟のミドルシュートが立て続けに決まった瞬間だった。

前日まで、「彼はこんなものではないのに……」という歯痒い思いで見ていただけに、心の中で「そうそう、これこそが彼本来のプレーなんですよ!」とつぶやかずにはいられなかった。

実は、熊谷が「いつも通り」ではないように感じたのは、8日の初戦前のこと。ふだんなら、こちらが挨拶をすると、「どうも」というようにしてぺこりと頭を下げてくれるのだが、この日は2度にわたって反応がなかった。

それでも「試合に集中しているんだろうなぁ」と思い、それほど気にはしていなかった。だが、コート上での彼のプレーには「らしさ」が感じられず、昨日まで試合を重ねるたびに歯がゆさが増していってた。

そんな熊谷を復活へと導きだしたのは、京谷和幸HCのこんな言葉だった。
「おまえにはチームのみんながいるんだぞ。自分と戦うのではなく、みんなと一緒に戦おう」

昨日そう言われて、熊谷は初めて自分が気負っていることに気付いたのだという。
「ずっと一人で戦っているような感じでした。コートに出ても、周りが全く見えていなくて『自分対相手5人』だったんです。でも、自分がそういうふうになっていることに気付いていませんでした。京谷さんに言われて、ようやく『自分がやらなくちゃ』と一人で気負っていることに気付いて……」

もちろん、熊谷の「いつも通り」を待ち望んでいたのは、チームこそだ。京谷HCは、試合後にこう語ってくれた。
「自分のやるべきことを見失っていたところをようやく取り戻してくれた。これから決勝トーナメントに向けて、古澤(拓也)、鳥海(連志)の2人が厳しくマークされるはずなので、熊谷のアウトサイドシュートはチームにとって大きい」

ようやく「気負い」から解けた熊谷。きっと明日以降も力を発揮してくれるはずだ。

指揮官が認める寺内、赤石の成長

そして、技術面もメンタル面も、試合を重ねるたびに成長しているのが、寺内一真だ。チーム一の高さをもつ彼がゴール下での強さを見せてくれていることで、日本としては幅広い攻撃が可能となっている。

その寺内が磨きをかけているのが、フリースロー。今日もアメリカが最後の手段としてファウルゲームをしかけてきた第4Qの終盤、残り1分を切ったところで得たフリースローを、寺内はしっかりと2本ともに決めてみせた。

「これを入れなければ、相手に流れがいってしまうと思っていました。スタンドからの野次もすごかったのですが、それでも落ち着いて自分のリズムで打つことができました」と寺内。今後の試合でも、インサイドで勝負しようとすればするほど、フリースローの機会は増えてくるはず。その1本1本が勝敗を分けることなる。寺内はそのことを見越して、ずっとフリースローを磨いてきた。その力を存分に発揮してほしい。

一方、日本の最大の武器であるディフェンスにおいて、京谷HCが最も信頼を寄せているのが、赤石竜我だ。今日も大事な4Qではスタートで起用され、「ディフェンスの安定を求めたかった」という京谷HCの狙い通り、赤石はしっかりと守備で貢献していた。

「僕が意図していることを一番に体現してくれる」と京谷HCが語るほど、今やチームにとって欠かすことのできない赤石。もともとディフェンスには自信を持っていたが、日本代表において自分の役割を導きだしたのは、初めての国際大会だった今年1月のアジアオセアニア予選だった。最初はベンチを温めることがほとんどだった赤石だが、粘り強いディフェンスを買われ、最後は主力として出場し、準優勝に大きく貢献。その時の経験が、大きな自信となったという赤石は、「ディフェンスでは、自分がチームを引っ張っていくという気持ちでやっている」。

この試合の第1Qだけで12得点をたたき出したキャプテン古澤、そしてスピードでは世界のトップレベルとも言われる鳥海。そんなエース的存在の2人が、チームに欠かすことは言うまでもない。それでも、彼ら2人だけでは、世界に勝つことはできないことも、また事実だ。だからこそ、彼ら以外のの活躍が非常に大事になってくる。厳しい戦いが待ち受けている今後は、さらにその重要性が増してくるはずだ。

(文/写真・斎藤寿子)

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