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「悔しい敗戦が次への糧に」世界選手権予選観戦記1

「ブー」
 試合終了のブザーが鳴り響くと同時に、会場中に大歓声が鳴り響いた。まるで優勝でもしたかのように、コート上で喜びを爆発させる相手国の選手たちを目の前にして、自分の気持ちをどう整理していいのかわからず、しばらくの間、スタンドで呆然となっていたーー。

初のアジアオセアニアチャンピオンへ

 23日に中国・北京で開幕した車いすバスケットボールの「2017IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップ」。来年8月にドイツ・ハンブルクで開催される世界選手権の予選だ。男子の出場枠は4で、26日にベスト4進出を決めたオーストラリア、イラン、韓国、そして日本の4カ国が出場権をすでに獲得していた。

 しかし、男子日本代表は、誰一人それで満足している者はいなかった。彼らの今大会の目標は、ただひとつ。「アジアオセアニアチャンピオン」の座を獲得することだったからだ。そして、その可能性は十分にあった。

 9位に終わった昨年のリオデジャネイロパラリンピック後、及川晋平ヘッドコーチは「一度、大胆にチームを壊して、再建していく」という強硬手段に出た。その中で、今、構築しようとしているのが攻守の切り替えの速い「トランジションバスケ」だ。8月31日~9月2日、東京体育館で行なわれた国際親善試合「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP2017」(WCC)では、そのトランジションバスケで、今大会とほぼ同じメンバーのオーストラリアに敗れはしたものの、わずか1点差だったのだ。

 今年6月のU23世界選手権でベスト4となったメンバーを中心に、若手も多く入ったチームは今、着実に成長し続けている。WCCでそれを感じていたからこそ、今大会では初優勝への可能性は十分にあると踏んでいた。そして、「チャンピオンの座を狙うだけでなく、取りにいく」という及川晋平ヘッドコーチ(HC)の言葉からも、自信がうかがい知れた。

 今大会、日本は順当にグループリーグをトップで通過し、26日の準々決勝ではイラクに95-34で快勝。格下相手にも、出だしからしっかりと強度の高いプレーをし続けた選手たちに奢りも気の緩みも、まったくなかった。ただ「決勝で勝つ」ことだけを考え、そのための準備は着々と進められていたーー。

香西、藤本に投げかけられたHCの厳しい言葉

 迎えたイランとの準決勝は、試合開始早々、得点の奪い合いとなり、一進一退の攻防が続いた。そんな中、やはり目立っていたのは、香西宏昭と藤本怜央の強さだった。香西のスリーポイントやバスケットカウントを誘うレイアップシュート、そして藤本のビッグマンに囲まれても力づくでねじ込むゴール下のシュートには、チームを鼓舞する「力強さ」があった。

 彼らのプレーを見ながら思い出したことがあった。今年3月、スペイン・マドリードで行なわれた「Champions Cup」(CC)という大会だ。車いすバスケのヨーロッパチャンピオンを決める「Euro Cup」(1部リーグ)の予選を勝ち抜いた6チームと、前年に決勝に進出した2チームの「ヨーロッパ8強」のみが出場することのできる大会だ。そこで見えたのは、香西と藤本が「エースといわれる所以」だった。

 当時、彼らはドイツ・ブンデスリーガのBG Baskets Hamburgに所属し、主力として活躍していた。そして、CCではヨーロッパの強豪チームと、まさに強度の高い戦いを繰り広げていた。香西の巧さ、藤本の力強さは、そのトップレベルの舞台でもしっかりと引き出されていたのだ。

 その様子を目の当たりにした際、ふと思ったのは「海外でこうした厳しい戦いを経験しているからこそ、彼らは日本のエースであり続けているのだ」ということだった。

 そして今回のイラン戦でも、彼らのプレーが何度もチームを救っていた。例えば、4Qの中盤。66-69と3点ビハインドの場面、まずは藤本が、イランのホームかと思われるほどの大ブーイングの中、いつも通り「無」の境地に入り、しっかりとフリースローを2本ともに決めてみせた。

 そして、香西は一人ドリブルで持ち込み、鮮やかにレイアップシュートを決めると、今度はバスケットカウントを狙ったシュートでフリースローもきっちりと決めてみせた。藤本はさらにインサイドからのシュートも入れ、わずか1分半もしないうちに、2人で10得点を叩き出したのだ。

 結局、この試合、香西はチーム最多の28得点、それに次いで藤本は17得点をマークした。

 しかし、最後の最後に、香西も藤本も、大事なシュートを外してしまった。これに対し、及川晋平ヘッドコーチは厳しい言葉を口にした。

「香西も藤本も、あの最後のショットは決めないといけなかった。決めなければいけないところで決め切る力がなかった。そういうところでの弱さというのは、ずっと課題としてきたことで、その弱さがまた出てしまった。本当に1本のシュートが入るか入らなかで勝負は決まる。そういう部分は、まだ世界には通用しないということです」

 彼らに対して、これだけ厳しい言葉をメディアの前で口にするのは珍しい。しかし、考えてみれば、厳しい言葉を投げかけるのは、それだけ期待を寄せているからにほかならない。

「今は誰がエースということはない」と及川HCは言う。それは今大会を通してのバラエティに富んだ選手起用にも表れている。しかし、それでもやはり、香西と藤本の存在は未だに大きいことは間違いない。強度の高い試合で、最後の最後、大事な場面でボールが回ってくるのも、やはりこの2人なのだ。

 もちろん、本人たちが一番自覚していることだろう。指揮官から高い要求をされる立場であることも、「世界で勝つ」ためのチームづくりにおける自らのポジションも理解しているはずだ。

 試合終了後、熱戦のあとの興奮冷めやらぬ中、私は「負けたのだ」という事実を受け止めきれず、しばらくスタンドで茫然としていた。その時ふと思ったのは、こうした厳しい戦いを幾度も経て、4年に一度のパラリンピックの舞台を踏むのだ、ということだ。

 そうであるならば、日本代表チームが、この悔しい敗戦からどう這い上がり、そして成長していくのかを見てみたいと思った。初のアジアオセアニアチャンピオンになる姿を見ることができなかったのは残念だが、それでも2020年への貴重な1ページを見ることができたことに変わりはない。

「北京に来てよかった」
心の底から、そう思えた。

 大会最終日、3位決定戦では「有終の美」を飾った姿を見て、帰国の途に就きたいと思う。

(文・斎藤寿子)

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