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「世界の舞台に刻んだ2020年への足跡」世界選手権観戦コラム

 26日、11日間にわたって熱戦が繰り広げられた車いすバスケットボールの世界選手権がフィナーレを迎えた。男子は優勝候補の筆頭だったリオデジャネイロパラリンピック金メダルチームのアメリカを敗ったイギリスが優勝。女子は下馬評通りの実力を見せたオランダが初優勝を果たした。一方、「ベスト4以上」を目指した男子日本代表は、グループリーグでは強豪トルコを破り1位通過したが、決勝トーナメント1回戦でスペインにわずか2点差で敗れ、最終結果は9位に終わった。しかし、大会の幕が閉じたばかりの今、胸の内にあるのは、「希望」「期待」しかない――。

失わない闘争心の裏にある“メンタル”

 今大会、試合後の囲みインタビューで、最も強く印象に残っているのは、敗れた決勝トーナメント1回戦のスペイン戦後に聞いた田中ウルヴェ京メンタルコーチの言葉だった。

――メンタルトレーニングの成果について教えてください。

そんなメディアからの質問に、田中コーチはこう答えた。
「選手一人一人が、弱い自分も強い自分も、きちんと知って、そして認めるということができるようになった。だから相手のことも深く知ろうとするし、本音が言い合える仲間としての意識が高い。どんなに点差が離れても、みんなでなんとかしようとする力というのは、リオ前にはなかったものです」

 その言葉を聞きながら、私は一人、恥ずかしさと申し訳なさとに苛まれていた。実は今大会、たった一度だけ、私の心が折れかかった時間帯があった。それこそが、スペイン戦だった。

 その試合、日本は1Qを14-10とリードして終えたものの、2Qで逆転を許し、19-26と5点のビハインドを負った。だが、まだこの時は日本の勝利を信じてやまなかった。わずか5得点だったことには不安はあったものの、それでも残り1分を切ったところで藤澤潔のミドルシュートが決まり、日本の得点で終えることができたことで、相手に流れを完全にもっていかれずには済んだ気がしたのだ。

しかし、3Qに入っても、主導権はスペインが握ったまま。徐々に点差が離れていく中、私はこんな言葉を口に出してしまっていた。
「ここまでなのかな……」
 1カ月前のイギリス遠征で確信していたはずの「ベスト4以上」への期待。それが揺らぎ始めていた。

 しかし、田中コーチが言う通り、選手たちに「ブレ」はなかったのだ。その証の一つが、4Q に入った直後のプレーにあった。パスカットした香西宏昭が、そのルーズボールを目がけて必死に突進し、勢いよくコート外に設置されたボードに衝突。さらに、香西が突進しながらなんとかコート上に戻したボールを、相手に奪われまいと、今度は鳥海連志が飛びついた。この一連のプレーに、はたと目が覚めるような思いがした。

「まだいける」――。選手たちの闘争心を前面に押し出したプレーを目の前にして、そう思ったのだ。

 結局、スペインにはあともう一歩のところで敗れ、その時点で「ベスト4以上」という目標は断たれた。だが、3Q終了の時点では15点差離れていたのが、4Qでみるみるうちにその差を縮めて同点に追いつき、最後は競り合うという展開を前に、日本の強さに酔いしれていた。

 あとから思えば、それは田中コーチが語った「メンタル強化の成果」に基づいたものだったのだ。

宮島徹也選手(撮影:越智貴雄)

チームに勝利をもたらすバイプレーヤーの存在

 さて、今大会は秋田啓や鳥海といった若手の活躍が目立った大会となった。そこにこそ、日本の成長が映し出されていることは確かだ。

 しかし、得点シーンには、その状況を作り出すバイプレーヤー的存在が必ずいる。その重要性を改めて感じたのは、宮島徹也のプレーだ。

宮島は秋田や藤本怜央と同じく高さがあるプレーヤーだ。そのため、普通に考えれば、得点を取ることが最大のミッションと考えがちだが、実はハイポインターには違う役割もある。“アタッカー”だ。誰よりも早くインサイドに飛び込むことで相手のディフェンスを崩し、引きつけ、味方のアウトサイドやインサイドでのシュートシーンを演出する。

宮島はこう語る。
「僕も得点を取りたいという気持ちはありますが、代表には僕よりもいいシューターがたくさんいる。ならば、僕がアタッカーとしての役割をしっかりとこなすことが、チームの勝利につながると思っています」

 ディフェンスリバウンドを取り、そこからすぐに切り替えて一目散にインサイドへとアタックしていく。それが宮島の最大の役割。だからこそ、スタッツの数字は気にはしていない。彼のプレーの貢献度は数字には表れないからだ。

「シューターがいいシュートを打てるように“フリ”を作って、スペースを空けるのが僕の仕事。そんな誰も気づかないところではあるけれど、それでシュートが決まった時には、密かに『よしっ』と誰にも気づかれないところで自己満の世界に入っています(笑)」と宮島。彼の存在の重要性は、及川晋平HCも京谷和幸ACも、口をそろえて「チームに絶対不可欠」と語る。

 そんな宮島の献身的なプレーは、こんなところにも表れていた。最後のオランダ戦(9位決定戦)の3Q、残り1分を切ったところで、34-35と1点差に迫っていた場面、日本のシュートが外れ、オランダがリバウンドを制し、速攻に出た。すると、宮島が素早い切り返しで一目散に自陣へと猛ダッシュ。すると、その宮島をボールから離そうとしたオランダの選手がピックをかけにきた。これがオフェンスファウルを取られてしまう。日本ボールで始まるや否や、古澤拓也のスリーポイントが決まり、日本は37-35でリードして最後の4Qを迎えた。

 結局、その試合は最後までもつれ、わずか2点差での辛勝だったことを考えれば、宮島の献身的なプレーをきっかけにして生まれた古澤のスリーポイントは非常に大きかったと言える。

 そのオフェンスファウルが宮島の想定内だったかどうかはわからないが、いずれにしても、古澤のスリーポイントが入った瞬間、彼はきっと心の中で一人、“自己満”の世界に入っていたに違いない。

 メンタル強化の成果。そして献身的プレーができる選手の存在。今大会では、そんなところにも、日本の強さや成長が垣間見えた。だからこそ、最後に声を出して、日本の車いすバスケファンに言いたい。

「結果は9位だったけれど、大丈夫。チームは成長し続け、確実に強くなっていますから」と――。

(文・斎藤寿子)

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