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パラコラム

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「初戦からエンジン全開!勢いに乗れるかがカギ」~車椅子バスケットボール展望~

今大会、6位以内を目指す車椅子バスケットボール男子日本代表(撮影:越智貴雄)

今大会、6位以内を目指す車椅子バスケットボール男子日本代表(撮影:越智貴雄)

 2013年、及川晋平ヘッドコーチ(HC)が男子日本代表の指揮官に就任し、新体制を発足して以降、車椅子バスケットボール男子チームが目指してきた舞台が、ついに幕を開ける。パラリンピックにおける過去最高の成績は、2008年北京大会の7位。今回は、それを上回る6位以内を目指す車椅子バスケットボール男子日本代表の戦いに迫る。

トルコとの初戦をピークに

「どの相手にも勝つ可能性がある。そういうチームに仕上がったという自信があります」
 8月24日、千葉ポートアリーナで行われた国内最後の強化合宿で、及川晋平ヘッドコーチはそうチームの手応えを語った。その表情に、一切の迷いはなかった。「すべての準備を整え、満を持してリオに臨む」。もう、すっかり指揮官の腹は据わっているように思えた。

 車椅子バスケは、競技初日から予選リーグが行われる。5試合を戦い、上位4カ国が決勝トーナメントへ進出。5位以下は、順位決定戦にまわることになる。日本は予選でトルコ、スペイン、オランダ、カナダ、オーストラリアと対戦する。

 まず目指すべきは、4年前のロンドンパラリンピックで叶わなかった決勝トーナメント進出だ。その鍵を握るのが、初戦のトルコ戦。「我々は、初戦にピークを持っていきます」と及川HC。白星発進でチームに勢いを乗せらるかどうかが最大のポイントとなると見ている。

 どんなに強いチームや選手も、初戦の入り方は難しいものだ。特にパラリンピックのように、4年に一度しかないと考えれば、緊張感は他の大会の比ではなく、スタートでつまづけば、そのまま力を発揮できずに終わるケースも決して少なくない。だからこそ、初戦からエンジン全開でいくつもりだ。

 トルコは、昨年の欧州チャンピオンシップでは決勝でイギリスに敗れはしたものの、準優勝でリオの切符を掴んでいる。日本が9位に終わった2014年の世界選手権でも銅メダルを獲得している強豪だ。

 高さのあるハイポインター2人をいかに抑えて、インサイドで仕事をさせないかがポイントとなる。日本が武器とするトランジションの速さで、早めに流れを引き寄せたい。

トルコとの初戦がカギ!(撮影:越智貴雄)

トルコとの初戦がカギ!(撮影:越智貴雄)

近づいてきた王者との距離

 予選の見どころのもうひとつは、やはり最終戦のオーストラリア戦だろう。アジアオセアニア地区では、イラン、日本、韓国が拮抗している中、オーストラリアが頭一つ抜けており、圧倒的な存在だ。パラリンピックでは2004年アテネ大会以降、3大会連続で決勝に進出しており、2008年北京大会では金メダルに輝いた。世界選手権では2010、2014年と連覇を達成している。もちろん、今回のリオでも優勝候補の筆頭であることは間違いない。

 しかし、日本はそのオーストラリアに対しても、勝つ可能性を感じている。その背景には、7月のイギリス遠征で掴んだ手応えがある。

 イギリス、オーストラリア、アメリカ、カナダ、オランダ、そして日本の6カ国で行われた親善試合、日本にとっては最後の海外勢との実戦だった。加えて、リオでは同じ予選グループのオーストラリア、カナダ、オランダと対戦するという点では、「リオのリハーサル」的意味合いもあった。

 結果は、2勝3敗。カナダ、オランダにはしっかりと勝ち星を挙げ、チームが順調に仕上がっていることを証明した。さらに、手応えを感じたのがオーストラリア戦だった。負けはしたものの、その差はわずか9点差。昨年10月のアジアオセアニアチャンピオンシップでは準決勝で対戦し、41-70とダブルスコアに近い大差をつけられ、完敗を喫している。その敗戦後、いかに日本が成長したかがうかがい知れる結果だ。

 もちろん、オーストラリアもリオ直前だけにフルメンバーで挑んでおり、決して手は抜いてはいない。加えて、日本は途中、体調を崩していたエース藤本怜央を下げている。そんな中での9点差は、日本に大きな自信をもたらしたことは言うまでもない。

 リオでパラリンピック4度目の出場となるベテランの藤井新悟は、こう語る。
「僕の記憶では、オーストラリア相手に、1桁差にまで追い詰めて、それこそどちらが勝つか負けるか最後までわからないという試合というのはしたことがない。自分たちの力が、そういうステージにまで上がってきているんだ、ということにすごく興奮しました」

 最大の要因は、日本の守備が機能し、オーストラリアに思うようにプレーをさせなかったことが挙げられる。

「だからこそ」と藤井は言う。
「リオ本番では、いかに日本が得点することができるかにかかっていると思います。スカウティングに基づいた正確な守備を維持させながら、攻撃ではフィニッシュでの決定力を高めることができれば、面白い試合になると思います」

 初戦のトルコ戦は、日本時間の9日(金)3時30分ティップオフ。それ以降、スペイン、オランダ、カナダと続き、同13日(火)1時15分からは予選最終戦のオーストラリア戦が待ち受ける。

 及川HCが「過去最高のメンバーが揃った」と自信を見せる日本代表。果たして、世界の強豪たちとどんな戦いを繰り広げるのか。2013年以降、紆余曲折を経て作り上げてきたチームの答えが、出る。

(文/斎藤寿子)

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