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競技レポート

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安達、挑戦者として連覇を目指したリオ リオパラリンピック

ゴールボールのボールを投げる安達=リオパラリンピック(撮影:越智貴雄)

ゴールボールのボールを投げる安達=リオパラリンピック(撮影:越智貴雄)

 リオパラリンピックの大会8日目にあたる14日、ゴールボール女子準々決勝が行われ、日本は中国と対戦した。前半の早い時間帯で2得点を挙げ、リードした日本だったが、その後2失点を喫し、同点に追いつかれた。延長戦でも決着がつかず、エクストラスローでの勝負の結果、日本は中国に敗れ、ロンドン大会に続く連覇を達成することはできなかった。

◆ 金メダルは過去のものと気づいた世界選手権

 中国側の投球したボールが、自陣のゴールに吸い込まれた瞬間、日本のリオでの戦いが終わった――。

 ピッ!「ゲーム!」
 試合終了のコールを聞くや否や、日本の選手たちは目を覆った。誰の目からも涙があふれ出ていた。その中で、安達阿記子はエースとしての責任の大きさを感じずにはいられなかった。

 試合後のインタビューで敗因について訊かれると、安達は「すべての責任は自分にある」とばかりに、こう答えた。
「最初に2点をリードしながら、(前半の終盤に)自分のところで抜かれて失点しまった。最後のエクストラスローでも、自分は絶対に決めなければいけない立場だったにもかかわらず、外してしまった。それが敗因だったと思います」

 決して4年前の栄光をひきずり、油断をしていたわけではなかった。逆に、安達には危機感さえあったほどだ。2014年の世界選手権で4位に終わったことをきっかけに、金メダルに輝いたロンドンパラリンピックが、既に過去の出来事に過ぎないことを、安達は強く感じていた。

「それまでは、『金メダリストとして、どうあるべきか』ということを意識することが大事だと考えていました。でも、2014年の世界選手権で負けた時に、それはもう違うなと思ったんです。自分たちは挑戦者なんだと。だからこそ、もっと成長しなければ、世界に勝つことはできない。そのことに気づかされました」

 安達は、その気持ちを忘れないようにしようと、時々、世界選手権での試合のビデオを振り返った。そうして、自分自身に喝を入れてきた。

「リオでも、自分たちは挑戦者として臨みます」
 ディフェンディングチャンピオンながら、決して浮き足立つことなく、挑み続けたリオデジャネイロパラリンピック。しかし、日本はベスト8という結果に終わった。

「チーム全員が、もう一度挑戦者となって、世界一を取りに行くという気持ちで臨みましたが、自分たち以上に世界のレベルが上がっていることを感じました。そこに早く追いつかなければ、日本にとって厳しい時代になるのかなと思います」

ゴールボールの日本の試合=リオパラリンピック(撮影:越智貴雄)

ゴールボールの日本の試合=リオパラリンピック(撮影:越智貴雄)

◆ 恩師を驚かせたメンタルの強さ

 今大会、安達は予選と準々決勝あわせて5試合で、チーム最多の6得点を挙げた。日本のエースとしての役割はしっかりと果たしたと言っても過言ではない。そんな安達の武器の一つが、メンタル面の強さだ。それは、こんなエピソードからもうかがい知れる。

 安達にとって、初めての国際大会は2007年、北京パラリンピックの世界最終予選だった。当時、日本代表のアシスタントコーチを務めた江黒直樹コーチは、その時の彼女の強さに目を見張ったという。

 特に印象に残っているのが、地元ブラジルと対戦した3位決定戦だったという。ブラジルの武器は、バウンド系のボールだ。今ではどのチームも投げるようになったが、当時は女子でバウンドボールを投げる選手はあまり多くはなかった。日本国内では、数人の男子が投げているくらいで、女子では非常に稀だった。そのため、主力選手にとっても対応は難しく、その試合でも日本はブラジルのバウンドボールに苦しんでいた。

 しかし、安達はそのバウンドボールを見事に抑え込んでいた。
「ディフェンスの姿勢は、まったく基本がなっていなかった。それでも、彼女としてはとにかく失点したくないという気持ちが強かったんでしょうね。バウンドボールに必死になって対応していました。技術的には粗削りでしたが、勝負に対する気持ちは、誰よりも強い選手でした」と江黒コーチ。

 だからこそ、負ければ誰よりも悔しさをにじませるのもまた、安達である。今大会、中国との準々決勝は、悔しい敗戦だった。チームとしてはもちろん、相手に得点を許し、エクストラスローではゴールを挙げることができなかった安達にとって、これ以上ない屈辱的な試合となったに違いない。

 だが、安達ならきっと、この敗戦を糧にして、前へ進んで行くはずだ。彼女には、その強さがある。

(文・斎藤寿子)

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