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パラ・世界選手権大会

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ハイジャンパー鈴木徹、「完璧」だった2mジャンプ ~世界パラ陸上観戦記4~

2m01をマークした跳躍(撮影:越智貴雄)

「やった!跳んだ!」
 気づくと、そう叫んでいた。初めて目にした「2mジャンパー」の姿に、興奮が収まらなかった。すぐ脇にいたボランティアスタッフは、そんな私の様子にとびっきりの笑顔を向け、彼の成功に拍手を送ってくれていた。思わず興奮してしまった自分が少し恥ずかしかったが、やはり嬉しさの方が勝っていた――。
「WORLD Para Athletics CHAMPIONSHIPS LONDON 2017」(世界パラ陸上競技選手権大会)競技9日目の22日、男子走り高跳び(T44)の決勝が行われ、ハイジャンパー鈴木徹(SMBC日興証券)が、2m01をマークし、銅メダルを獲得した。実力を出し切れずに終わった昨年のリオデジャネイロパラリンピック後、初めての2mジャンプ。鈴木は今後への手応えを感じているようだった。

1m85の1本目、リズムよく踏み切ると、鈴木の体はふわっと宙に浮き、余裕でバーを越えた(撮影:越智貴雄)

予感させた1本目の跳躍

 この日、初跳躍となった1m85の1本目、ゆったりとした助走からリズムよく踏み切ると、鈴木の体はふわっと宙に浮き、余裕でバーを越えた。助走の一歩目から、体がマットに沈むまで、すべて完璧のように思えた。

「うわぁ、きれいだなぁ……」
 スタンドの記者席から双眼鏡で見ていた私は、ひとりそうつぶやき、初めて彼の跳躍を見た時に似た気持ちが沸き起こっていた。踏み切った後、体が宙に浮いている間、一瞬時間が止まるような感覚を覚える。子どもの頃から陸上競技の中でも走高跳が好きなのは、この「瞬間」になんとも言えない心地よさを感じるからだ。初めて見た時、鈴木の跳躍には、その「瞬間」があった。ひと目で彼の跳躍に魅了されてしまった。

 しかし、これまで世界の舞台で彼の姿を見ることができずにいた。チャンスは2度あった。2012年ロンドンパラリンピック、そして昨年のリオデジャネイロパラリンピックだ。もちろん、どちらも彼の跳躍はスケジュールに入れていた。だが、いずれも仕事の関係上、他の競技会場にいかなければならなくなり、泣く泣く断念したのだ。
「私は彼の跳躍に縁がないのかもしれない……」
 そんなふうにさえ思っていた。

 だから今大会に取材に行くと決めた時、「ようやく見れるんだ」と嬉しくて仕方なかった。陸上競技単独の大会のため、必ず見ることができるからだ。開幕前から22日が待ち遠しかった。だが、正直に言えば、このロンドンで2mジャンプを見ることができるとは思っていなかった。ちょうど3週間前の関東パラ陸上競技選手権(7月1、2日)での鈴木は、記録も1m90に終わり、インタビューでも「現在は課題克服のためにいろいろと取り組んでいるところ」と語っていたからだ。
「次につながる彼らしい跳躍が見られれば……」
 私は、そんなふうに思っていた。

マットから起き上がると、鈴木は称賛の拍手を送るスタンドの観客に向かって、ガッツポーズで応えた(撮影:越智貴雄)

初の「ノータッチ」での2mジャンプ

 しかし、この日の1本目の跳躍を見て、思いは一変した。
「今日はいけるかもしれない」
 遠くのスタンドからもわかるほど、鈴木の跳躍は美しく、調子の良さがうかがえたからだ。

 鈴木自身、この最初の1本が非常に大きかったという。
「あれがすべてだったと思います。いいかたちで入ることができたので、あれで気持ちが乗ることができました」

 その後、鈴木は1m90、1m95も1本目で成功させ、1m98を2本目で跳んだ。「海外の試合で、これほど失敗のない跳躍は初めて」と鈴木が語るほど、この日は本当に調子の良さがうかがえた。

 いよいよバーの高さは「2m01」となった。軽快にステップを踏むようにして助走をし、踏み切りで一気に力を爆発させた鈴木の体は、ふわりとバーを越えていった。体のどの部分にもバーが当たらずに2m台のバーを跳んだのは初めてのことだった。

 マットから起き上がると、鈴木は称賛の拍手を送るスタンドの観客に向かって、ガッツポーズで応えた。喜びを爆発させるというよりも、静かに2mジャンプの感触をかみしめているかのように見えた。

「完璧でした」
 跳躍後のインタビューで、その時の感触について訊かれると、鈴木は迷わず、そう言い切った。その言葉を聞きながら、貴重な場に立ち会えたことに感謝したい気持ちになり、私はひとり深い感動を覚えていた。

 もちろん、これで終わりではない。鈴木にとって、最大の目標はやはりパラリンピックでのメダル獲得にある。
「今日の跳躍は良かったが、それでもこのままでは(世界との)勝負にならない。もっと記録を伸ばすことができるように、これからも練習を積んでいきます」

「跳ぶ」ことに魅せられたハイジャンパー鈴木徹。3年後、東京の空に舞う彼の姿を見るのが待ち遠しい。

<鈴木徹(すずき・とおる)>
1980年5月4日、山梨県生まれ。高校時代にはハンドボール部に所属し、国体3位の成績をおさめる。大学入学直前に交通事故で右膝下を切断。2000年から本格的に走高跳を始め、その年のシドニーパラリンピックに初出場。その後、04年アテネ、08年北京、12年ロンドン、16年リオと5大会連続でパラリンピックに出場。ロンドン、リオでは4位とあと一歩のところで表彰台に届かなかった。今大会、世界選手権では初めてのメダル獲得となった。

(文・斎藤寿子)

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