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パラ・世界選手権大会

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障がい者リポーター後藤さん、平昌からNHK生中継

NHK初の一般公募から選ばれた障がい者リポーターの後藤佑季(撮影:越智貴雄)

 パラリンピックに出場するアスリートは何かしらの障がいがある選手たちだ。しかし、その活躍ぶりを伝える報道側に、障がいがある人はどれだけいるだろうか。

 今回の平昌冬季パラリンピックで、NHKが伝える側のリポーターに障がい者を採用した。それが後藤佑季さんだ。後藤さんは10月からの事前取材を経て、平昌パラリンピックの会場で中継をこなしてきた。

 後藤さんのラスト登板だった13日の番組放送の直後を狙い、仕事やプライベート、障がいがある人が伝える意義についてインタビューした。

パラアイスホッケー会場から生中継する様子、左から千葉絵里菜、後藤佑季、中野淳(撮影:越智貴雄)

ポジションは「攻め」

─スタッフの方に後藤さんのキャラクターを聞いたところ、みんなが「度胸がある」と口を揃えていました。今日も緊張していたようには思えない感じでしたね。

 実は緊張の毎日でした。今日も水を飲む手が震えちゃって。ミスも一つしてしまい、みんなに助けてもらってなんとか乗り切れたのが正直なところです。
 学生時代に励んでいた陸上競技の経験が生きたなと思いました。陸上は一瞬で決まる勝負なので、それまでの準備が重要です。今回も準備さえしっかりしていれば、なんとかなると思って毎日取り組んでいました。

─準備というと、台本を読み込んだりするのですか?

 実家の母と毎晩、Skype(スカイプ)を使ってネット電話でつなぎ、読み上げの練習をしていました。母はテレビが好きなので、他の番組と比較しながらアドバイスをくれました。

─具体的なアドバイスはありましたか?

 「普段喋っているようなトーンで話せばいいよ」って。どうしても声のトーンが低くなっちゃう癖があるようです。あとはテレビ特有の「間」のとり方です。これは私にはハードルが高い。
 というのも、私は難聴(人工内耳使用)でテレビの音声が聞き取れない時も多く、独特な「間」のとり方がつかみづらいのです。聞こえなければ自分で勉強したくても努力もできないので、そこは母のアドバイスがあって助かりました。

─「負けず嫌い」と聞きました。

 (間髪入れずに)一番じゃないと嫌なんです。

─睡眠は取れましたか?

 私は睡眠時間を大事にしていて、毎日6時間を確保するようにしてます。それを逆算して一日のタイムスケジュールを組んでいました。今日は夜中の1時半まで予習して、朝8時起き。夜のほうが覚えられるから、朝に確認をしていました。

─NHKが初めて公募で障がい者リポーターを募集し、全国159人の中から3人(後藤さんと千葉絵里菜さんと三上大進さん)が選ばれました。今回の中継は、後藤さんと千葉さん、そしてNHKアナウンサーの中野淳さんの3人で行われました。もしその3人を、攻め・守り・ゴールキーパーの三役に振り分けるとすれば?

 (しばらく2人を眺めて)中野さんは何かあっても最後に拾ってくれるゴールキーパー。千葉さんは守り役。そうすると私が……、はい、攻めだったと思います。まだまだ力不足ですが、もっと切り込めるようにしていきたいです。

パラアイスホッケー会場の一角から日本戦の生中継配信をするNHK(撮影:越智貴雄)

誰もが直面する未来の課題

─ところで、なぜリポーターを希望したのでしょうか?

 まず、私のような一見したらわからない聴覚障がい者がいることを知ってもらいたかったからです。
 大学から上京して一人暮らしを始めた時に、高校までは周囲に守られていたと痛感しました。それが社会に出てみて一転。一見するとわかりにくい私のような障がいに対して、社会の配慮の無さに気づかされました。普通にしゃべれるし、髪の毛をおろしていたら(耳の人工内耳を指差して)これは見えないので。
 あと、私の障がいが「聴覚障害」であることも理由の一つです。というのも、キャスターはコミュニケーション能力が必要とされる仕事で、耳に障がいがあれば不可能な仕事と思われています。努力すれば仕事は出来るという姿を見せたいし、それが誰かの頑張りたいというきっかけになってほしいと志望しました。

─大学ではメディアに関する講義を受けているそうですね。

 その講義で気になる数字に出合いました。テレビが人々の意思決定の3割に影響を及ぼすというデータです。影響力のあるテレビにも関わらず、伝える側に障がい者がほとんどいません。全国に約15%いると言われていますが、その人口比がメディアに反映されているでしょうか。社会が反映されるべきメディアなのに、それがされていません。
 年齢を重ねれば、誰でも目が悪くなり、耳も遠くなります。障がい者の抱える課題は、誰もが直面する未来の課題です。

─聴覚障がい者向けに、記者会見では手話通訳者が立つようになりました。

 その通訳者がテレビ映像に映っていなければ意味がありません。記者会見場に手話通訳者がいたとしても、テレビ画面に表示されなければ、テレビを見ている聴覚障がい者には何も情報が届きません。メディア内部でこのような意見が交わされ、伝える側の意識も高まれば、だいぶ変わってくると思っています。

生中継終了後、ホッとした安堵の表情をみせる後藤佑季(撮影:越智貴雄)

4年後の「恩返し」に向けて

─障がい者に対して勇気づけたい、という意識はありますか?

 障がい者だけでなく、障がいのない人にも伝えたいです。障がい者だけが特別ではないし、障がいの有無に関係なく、人は誰だって助け合いがなければならないし、お互いに助け合ってこそ良い社会が生まれるというところまで見ていきたいです。

─パラリンピックの選手の中には、オリンピック競技で負傷した選手が活躍しているケースを見ます。障がいがあっても活躍できる場所さえあれば、たとえ大きなケガをしても、与えられた環境で新たな人生が描けるように感じます。

 知る段階から理解の段階に入れば、パラリンピックの見方もそう変化するのだと思います。でも、社会的にはまだ知る段階だと思います。
 日本で障がい者の存在を広げたのはテレビでした。障がい者をテーマにした長時間番組は批判される声が多いですが、その役割は一般社会から遠ざけられていた障がい者に対する意識の変化です。間違いなくその番組によって、意識は変えられました。
 今は若い人も障がいに対して寛容になり、国際化の流れもあり、多様性ある社会に慣れ始めています。障がい者をテーマにした番組が批判されているのは、昔のやり方を続けているからで、今はその次の段階に来てるのだと思います。
 一見してわからない私のような「聴覚障害」は、まだ知ってもらっていません。どう助けていいのか、何が聞こえないのか、何が苦しいのかは、私にしかわかりません。障がい者も発信していかないといけない。そして前提には「知っている」ことが必要です。しかし未だ知られていません。私が出ることで、まずは知ってもらって、その次の段階である「理解」にたどり着かせたいです。2020年までになっていればいいけど、そんなに早くは出来ないかな。私や(共演した)千葉さんの出演が一つのきっかけになればと思います。

─オリンピックとパラリンピックが合わさって、ようやく分厚いスポーツという社会ができるように思います。

 今回はピョンチャンからたくさん中継されました。ここからどうなるかですね。平昌パラリンピックを見た視聴者の中から、格好いいと思って競技を始める人が出てきたら、4年後には「期待の選手」になっているのではないでしょうか。
 今回の出演でたくさんの選手たちの貴重な時間を割いてもらいました。私が担当した中継をきっかけに新たな選手が生まれた時に、初めて選手への「恩返し」ができるのだと思います。今はそれに向けて努力していきたいと思っています。

(文・上垣喜寛)

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