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パラコラム

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パラ金・成田緑夢 狙うのは「コメディー・ユーチューバー」

金メダルを獲得した喜びを配信する成田緑夢(撮影:越智貴雄)

 平昌冬季パラリンピックの競技を終え、メディアの囲み取材に一通り答え終わると、成田緑夢は自分のスマホを取り出して両手で何やら設定をし始めた。成田は周りを一切気にすることなく、ゲームに没頭する高校生のような表情を浮かべた。

 そして……
「こんにちはー。僕は今パラリンピックに来ています」。
 メディアのカメラに囲まれる中、成田は左手を大きく広げ、右手に持ったスマホに話しかけた。 
「そして今、バンクドスラロームの試合を終えました。結果は金メダルでーす」。
 スマホの先で待つ「みなさん」に向かってプライベートな記者会見を開いていた。金メダリストの「アスリート・ユーチューバー」が誕生した瞬間だった。

スマホで配信する成田緑夢(撮影:越智貴雄)

アスリート・ユーチューバーへの道

 成田が夢中で中継の設定をしていたのは、インターネット動画共有サービス「YouTube」のライブ中継だ。成田が映像の投稿を始めたのは昨年10月11日。「成田緑夢アスリートYouTuber grim narita」のネーミングでチャンネルを開設した。
 開設当時のチャンネルカテゴリは「スポーツ」だったが、続く2つ目の投稿からは「コメディー」で映像を投稿。
 「スノーボードしながらけん玉って出来るの!?無理と思ったら奇跡が起きた!」「スノーボードしながら流鏑馬(やぶさめ)出来るの!?トライしたら奇跡が起きた!!!」など、タイトルだけ見れば、その投稿者がまさか将来の金メダリストになるとは思わないだろう映像ばかり。成田の金メダル獲得直後の記念すべきライブ映像も「コメディー」カテゴリーでアップされている。

 金メダリストがライブ中継を実行したのは、少なくとも日本人選手としては初めてのことだ。いちファンとしてはメダル獲得後の本人からの生のメッセージは本当に嬉しいものだろう。投稿したYoutubeチャンネルはアスリートの数少ない発信の場所であり、立派なプライベートメディアでもある。

 海外のメダリストを見ると、ユーチューバーとしてチャンネルを立ち上げている選手もいる。2016年のリオデジャネイロオリンピック・体操で銅メダリストを獲得したイギリスのナイル・ウィルソンは、自身の名前のチャンネルで体操の技術を教え、約68万人がチャンネル登録をしている。成田の登録者数はまだ2,484人(16日19:40時点)だが、このチャンネルが話題にのぼる頃には、成田の言う「アスリート・ユーチューバー」としての輪郭が浮かんでいることだろう。

メディアに撮影されながら自らも配信する成田緑夢(撮影:越智貴雄)

選手・観客ファーストの東京2020を

 オリンピック・パラリンピックの開催期間中は、メディアが選手本人に取材する機会は極端に限られている。それを叶えられる場所は競技直後の限られた時間と場所でしか許されていない。選手の体調管理がその主な理由だ。フェイスブックやインスタグラム、ツイッターなど、ネット環境さえあれば、誰もが情報発信できる時代であり、成田は選手からの新たなメディア作りに挑戦しているようだ。

 選手の保護、報道の自由、安全な大会運営……様々な課題が交錯する平昌冬季パラリンピックも残り1日で幕を閉じ、2年後の東京2020にたすきが渡される。長年パラリンピックを取材してきた記者はこう語った。
 「少なくとも東京では、厳しい規制をかけて観客やファンに届く選手の声が少なくなるような、残念な大会にはしてほしくない」。

(文・上垣喜寛)

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