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超人烈伝

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藤田征樹 ただ一人の「勝者」となるために

藤田征樹選手の走り=2016アジアパラサイクリング自転車競技大会(撮影:越智貴雄)

藤田征樹選手の走り=2016アジアパラサイクリング自転車競技大会(撮影:越智貴雄)

 自身2度目となった2012年ロンドンパラリンピック、藤田征樹はロード・タイムトライアルで銅メダルを獲得した。それは、彼がようやく実現させた世界トップへの“返り咲き”だった。そして「自分は、もっと強くなれる」、そう手応えを感じた瞬間でもあった。

◆ 表彰台まであと一歩

 初めて出場した2008年北京パラリンピックで、藤田は銀、銅合わせて3つのメダルを獲得した。「次は金メダル」。周囲はもちろん、藤田自身もそう思っていたに違いない。ところが、思わぬ壁が立ちはだかった。クラス分けである。2010年のルール改正により、藤田はひとつ障害の軽いクラスに入れられたのだ。彼曰く、それは「ボクシングで階級がひとつ上がるようなもの」。競い合う選手のレベルが一気に上がり、全ての力を一段も二段も引き上げなければ、勝負の土俵にさえ上がれないような状況に陥った。

 それでも藤田には、ブレない信念があった。
「当時の僕は、まだ自転車競技を始めて間もなかった。だから、選手として未熟なところがたくさんあったんです。でも、だからこそこれからトレーニングをして、色々と経験を積めば、もっとレベルアップできるという思いがありました。だから、ルール改正で厳しい戦いになっても、自分さえブレずに高みを目指していけば、きっとまたこのクラスでも戦っていける。そう信じていました」

 それまで以上に、自分を厳しく律し、過酷なトレーニングを積んできた藤田に、一筋の光が差し込んだのは、ロンドンパラリンピック直前の2012年5月のことだった。イタリアで行われたワールドカップ、藤田はタイムトライアルで表彰台にあと一歩と迫る4位入賞。しかも、3位の選手との差はわずか1秒だった。

「20キロのコースをおよそ30分ほど走った中での、たった1秒でしたから、本当に悔しかったです。ただ、それまでは入賞したとしても6位とか7位と、表彰台からは少し離れていました。そんな中で、ルール改正以降では一番いい結果を残すことができた。ロンドンに向けて大きな手応えとなりました」

藤田征樹選手の走り=2016アジアパラサイクリング自転車競技大会(撮影:越智貴雄)

藤田征樹選手の走り=2016アジアパラサイクリング自転車競技大会(撮影:越智貴雄)

◆ ロンドンで掴んだ手応え

 しかし、ロンドンパラリンピックでは前半のトラック種目は、20位(1キロタイムトライアル)、9位(3キロ個人追い抜き)と、藤田にしてみれば「惨敗」の結果に終わった。
「自分は、何をしにロンドンまで来たのだろう……」
 藤田はすっかり落胆し、自信を失いかけていた。

 そんな彼に再び戦うエネルギーを与えたのは、同じパラサイクリング日本代表チームメイトたちの活躍だった。
 「タンデムの大城竜之選手がトラックの個人スプリントで3、4位決定戦にまで進んだり、脳性麻痺のクラスの石井雅史選手が2009年の大けが以降では自己ベストのタイムで6位入賞したり……。そんな日本人選手の活躍を目の当たりにして、『よし、自分も思い切っていこう』と気持ちが奮い立ったんです」

 気持ちを切り替えて臨んだロード・タイムトライアル、藤田はアップダウンが激しいコースを、前半から飛ばし、言葉通り「すべての力を出し尽くした」攻めのレースを展開。自身でも納得のいく走りで、見事、銅メダルを獲得した。メダルセレモニーでは、表彰台の上で満面の笑顔を見せる藤田の姿があった。

◆ リオで「勝者」になるための準備

 ロンドンから4年の月日が流れ、今、藤田は3度目となるリオデジャネイロパラリンピックに向けて最終調整を行っている。ロンドンパラリンピックで掴んだ手応えは今、もう一段上のレベルまで到達している。その最大の要因が、昨年8月のロード世界選手権(スイス)での金メダルだ。

 「2015年は、翌年のパラリンピックイヤーに向けて、“勝つ”ことが目標でした。2009年のワールドカップで優勝して以降、それこそルール改正後は一度も優勝することができずにいました。リオで勝つためには、それまでに一度は勝つ経験が必要だろうと思っていたんです」

 藤田が言う「リオで勝つ」という意味は、「メダル獲得」ではない。3位でも2位でもなく、1位になること。金メダリストだけが、唯一の勝者なのだ。4年に一度の本番で、その「勝者」となるには、それ相応の準備が必要となる。本番前に「勝ち切ることがどういうことか」を実際に経験することもまた、重要と考えていたのだ。

 それを実現させたのが、昨年のロード世界選手権での金メダルだった。残り14キロでの早めのアタックが効き、2位に1分半という大差をつけての優勝。6年ぶりに得た「勝ち切る」感触は、本番での大きな力となるはずだ。

 それでも「世界のトップ選手たちの実力は拮抗している。誰が優勝してもおかしくはない」と気を引き締める藤田。世界最高峰の舞台で、ただ一人の勝者となるために、今、着々と準備を進めている。

(文・斎藤寿子)

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