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超人烈伝

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「世界中が注目する、義足ジャンパーのレームとは?」~陸上・マルクス レーム~

走り幅跳び男子T44クラス(片ひざ下切断など)の世界記録(8メートル40)を持つレーム=2015パラ陸上世界選手権(撮影:越智貴雄)

走り幅跳び男子T44クラス(片ひざ下切断など)の世界記録(8メートル40)を持つレーム=2015パラ陸上世界選手権(撮影:越智貴雄)

 9月7日(日本時間8日)に開幕が迫るリオデジャネイロ・パラリンピック。右脚義足のアスリート、マルクス・レーム(ドイツ)は、その活躍に世界が最も注目する選手の一人だ。走り幅跳び男子T44クラス(片ひざ下切断など)の世界記録(8メートル40)をもち、リオではパラリンピック2連覇がかかる。

 それだけではない。彼は、「オリンピックの金メダルに最も近いパラリンピアン」、そんな風に形容されることもある。現に、8月に行われたリオ五輪で、男子走り幅跳び金メダルのジェフ・ヘンダーソン(米国)の記録は8メートル38。レームの世界記録のほうが上である。実際、レーム自身もリオ五輪を目指したが、断念した経緯もあり、「もし出場していたら……」という声も聞こえてくる。

2014年8月、パラ陸上ヨーロッパ選手権に出るも砂場の長さが足りず遠慮がちな跳躍に終わった。それでもレームだけが突出した記録だった(撮影:越智貴雄)

2014年8月、パラ陸上ヨーロッパ選手権に出るも砂場の長さが足りず遠慮がちな跳躍に終わった。それでもレームだけが突出した記録だった(撮影:越智貴雄)

 子どもの頃からスポーツ好きだったレームは2003年、ウェイクボード練習中の事故で右脚の膝から下を切断。14歳だったレームは強い意思でリハビリをこなし、事故から2年後には、義足をつけてウェイクボード競技に復帰。その後、陸上に転向し走り幅跳びを始めると、めきめき頭角をあらわす。12年には初出場のロンドンパラリンピックで7メートル35を跳び、初優勝を飾った。

ロンドンパラリンピックで世界記録を塗り替えガッツポーズするレーム(撮影:越智貴雄)

ロンドンパラリンピックで世界記録を塗り替えガッツポーズするレーム(撮影:越智貴雄)

 その後も順調に記録を伸ばしたレームは14年夏、国内最高峰の大会「ドイツ陸上競技選手権」に健常者に混じって出場。すると、オリンピアンをも抑え、義足選手として初めてドイツチャンピオンとなった。しかも、マークした8メートル24は、もし12年ロンドン五輪に出ていたら銀メダルに輝く記録だったこともあり、「パラリンピアンがオリンピアンを超えた」と世界中をにぎわせた。

2015パラ陸上世界選手権で世界記録を出し金メダルに輝いたレーム(撮影:越智貴雄)

2015パラ陸上世界選手権で世界記録を出し金メダルに輝いたレーム(撮影:越智貴雄)

 翌15年、パラ陸上の世界選手権に出場したレームは8メール40の大ジャンプを見せ、自身がもつ世界記録(8メートル29)を更新した。この記録が、ロンドン五輪の優勝記録(8メートル31)を上回ったことで、義足ジャンパーとして初めての五輪出場と金メダル獲得への期待感が膨らんでいった。

 レーム自身もこのとき、五輪出場への明確な意思と希望を示している。ただし、その目的は「五輪の金メダル」ではなく、「パラリンピック選手の競技力への理解や認知度を高めること」だと強調。世界最高峰の五輪という舞台で、パラリンピアンである自分が健常のトップ選手たちと肩を並べて戦うことは、その目的を達成する大きなチャンスだと考えていたのだ。

リオ五輪出場を熱望したが、国際陸連が義足には有利性がないという証明ができていないとして、リオ五輪出場は断念せざるをえなくなった(撮影:越智貴雄)

リオ五輪出場を熱望したが、国際陸連が義足には有利性がないという証明ができていないとして、リオ五輪出場は断念せざるをえなくなった(撮影:越智貴雄)

 だが、レームの記録が健常者をしのぐようになるにつれ、「反発力の高いカーボン繊維製の義足で踏み切ってジャンプするのは人間の脚より有利ではないか?」といった疑念の声が高まっていく。こうした事態を受け国際陸上競技連盟は、五輪の参加条件として、「義足には有利性がないと選手自身が証明すること」という条文を加えた。

リオでの連覇に期待がかかるレーム(撮影:越智貴雄)

リオでの連覇に期待がかかるレーム(撮影:越智貴雄)

 レームは専門家の協力も得て証明を試みたが、期限までに集まった科学的データの結果は「義足は助走では不利で、踏切では有利」といった内容にとどまり、義足の有利性を完全に否定することはできず、国際陸連が「証明は不十分」と判断した。結局、7月初旬には、「レーム、リオ五輪への出場を断念」というニュースが世界中で報じられた。

 とはいえ、国際陸連は今後も作業部会をつくり義足の有利性の有無を検証し続ける意向で、そのメンバーにはレーム本人も加わるという。その結果しだいでは陸連もルールを改正し、来年の世界選手権、さらには20年東京五輪へのレーム出場の道が開けるかもしれない。

ともあれ、まずはリオ・パラリンピックでの連覇に全力を注ぐ。レームがどんなジャンプで、どんな記録を残すのか。注目の男子走り幅跳びT44の決勝は、大会終盤の17日午後6時(日本時間18日午前6時)すぎにスタートする予定だ。(*日本選手の出場なし)

(文/星野恭子)

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