涙の銀メダル 辻内彩野、亡き二人に捧ぐ「天に掲げました」【パラ水泳世界選手権】

高々と掲げられた銀メダル。その光は、努力と感謝を映し出していた(撮影:越智貴雄)
シンガポールで開催中のパラ水泳の世界選手権(大会5日目)は25日夜、女子100メートル自由形(S12=視覚障害)の決勝が行われ、辻内彩野(三菱商事)が1分00秒73で銀メダルを獲得した。
表彰式で銀メダルを首にかけられると、辻内は静かに天を仰ぎ、そっとメダルを掲げた。その姿には、特別な思いが込められていた。

メダルを手に笑顔を見せる辻内彩野(撮影:越智貴雄)
その一人は、今年1月に87歳で亡くなった母方の祖母だ。幼いころからそばで支えてくれた存在で、幼稚園の送り迎えから、泊まりに行く日々まで、辻内にとって欠かせない存在だった。「幼い頃からずっと身近にいてくれた存在で大好きな祖母だったので、亡くなったときは本当に悲しかったんです」と声を詰まらせた。
そしてもう一人は、9月5日に55歳で病気で亡くなった成田真由美さん。パラリンピックで15個の金メダルを獲得し、パラ水泳界を牽引し続けたレジェンドであり、2019年の世界選手権で辻内が初めてメダルを獲得した際には、同じ部屋で過ごした大切な先輩だった。「今回は一番いいタイムが出たときだけ、2人のためにメダルを掲げようと決めていました」と打ち明けた。

力強いストロークで銀メダルをつかんだ辻内彩野(撮影:越智貴雄)
成田さんへの思いを問われると、辻内はこう続けた。「成田さんがいてくれたから、今の私がいます。これからは、若手の選手が“彩野さんがいたから”って言ってくれるような、そんな成田さんみたいになりたいです」
銀メダルは、自身のためだけでなく、天へと届けた大切な人たちへの感謝の証でもあった。
(取材・文:越智貴雄)