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「涙が出るぐらいやっぱ悔しい」副島選手、病と闘いながら1年ぶりのフル完走【大分国際車いすマラソン】

力強い走りを見せる副島選手(撮影:越智貴雄)

病気と闘いながら、再び世界のトップを目指す——。

パラリンピックに4度出場し、ボストン、ベルリンなど世界最高峰のワールドマラソンメジャーズで優勝を重ねてきた副島正純選手(55)が16日、大分国際車いすマラソンで1時間38分55秒・15位で完走した。

約1年ぶりのフルマラソン。ゴール直後、副島選手は悔しさと前向きさの混じる声で言った。
「うーん、涙が出るぐらいやっぱ悔しい。」

そして、「まだ走りたい」「まだ追いかけたい」。
もう一度、世界の舞台で――その思いを繰り返した。

限界と向き合いながら、それでも前へ

スタート直後、先頭集団は一気にスピードを上げた。だが副島選手は「無理をすれば壊れる」と判断し、自分のリズムを崩さずに走った。

今日は、副島選手にとって、自身の走りを確かめるレースだった。

それでも背後から迫る海外勢の女子トップ選手の気配には緊張した。
「抜かれたらどうしようって怖さがあった。競技者として“越えたくないライン”なんです」

終盤はその選手たちをストレートで振り切ってフィニッシュ。しかし胸に残ったのは、数字ではなく“競技者としての悔しさ”だった。
「順位やタイムの悔しさじゃない。今の自分の立ち位置が悔しい」

それでも、走る

レース前、リラックスした表情を見せる副島選手(撮影:越智貴雄)

副島選手は2024年4月、悪性脳腫瘍の手術で腫瘍の9割を摘出。今年2月には再発が見つかり、4月には医師から厳しい状況を告げられた。

長崎から東京への通院と治療が続く中、本人も“この状態で42kmを走るのは普通ではない”と感じながら、それでも挑んだ42.195kmだった。

副島選手には、走らずにはいられない理由がある。
「走ることは、生きることの証し」

沿道の声援も、その背中を押した。
沿道からは大きな声援が飛び続けたという。

「応援の声も聞こえたし、俺まだ走っていいんだっていう安心感があって。嬉しい気持ちになれる、すごくいい景色が見えました」

5月に発足させた「SOEJIMA STRONG」

今年5月には「SOEJIMA STRONG」プロジェクトを仲間と立ち上げ、チャリティーTシャツや帽子の販売、SNSで闘病や練習の日々を発信してきた。

今日の大分でも、そのチャリティーTシャツを着た人たちが多く応援に駆けつけていた。

「一人で抱え込んでた時期は本当にしんどかった。でも、人と話し、応援が届くことで“また世界で戦いたい”という気持ちが戻ってきました。応援してくれる人たちとのコミュニケーションが、免疫力にも気力にもつながっています」

42.195kmを走り切った姿は、記録以上の意味を持っていた。
今日の副島選手の走りは、見ていた多くの人の心にも確かに届いていた。

(取材・文:越智貴雄)

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