「明日、どんな景色が見えるかすごく楽しみ」副島正純選手、病と闘いながら再び42.195kmへ【大分国際車いすマラソン】

大分入りを前に、地元・長崎県諫早市で最終調整に励む副島選手(撮影:越智貴雄)
第44回大分国際車いすマラソンの開催が翌日に迫った15日、大分市ガレリア竹町ドーム広場で開会式が行われた。車いすマラソンの世界記録保持者らトップアスリートが集まる中、パラリンピックに4度出場し、ボストン、ベルリンなど世界最高峰のワールドマラソンメジャーズで優勝を重ねてきた副島正純選手(55)の姿もあった。
世界の舞台で頂点を争ってきた男が、今は病と闘いながら再び大分のスタートラインに帰ってくる。
その16日を迎えることは、競技者として特別な節目となる。
副島選手は2024年4月、悪性脳腫瘍が見つかり、10時間を超える大手術で腫瘍の9割を摘出した。昨年は抗がん剤治療が思うように進まず、「心が折れそうになる時期もあった」と振り返る。昨年の大分大会では、すでに大分入りしていながら、結果へのこだわりと不安から直前に出場を断念。「頑張れるモチベーションがなかった」。競技人生で初めてのレース直前の棄権に、深い悔しさが残った。
今年は状況が異なる。治療を続ける中で今年2月には再発が見つかり、長崎から東京への通院が続いた。春には医師から厳しい状況を告げられる場面もあったが、そんな中で力となったのが“人とのつながり”だった。

開会式後、「SOEJIMA STRONG」チャリティーTシャツを購入し、その場で着用した世界的レジェンドのハインツ・フライ選手(右)と副島選手(撮影:越智貴雄)
5月に仲間と立ち上げた「SOEJIMA STRONG」プロジェクトでは、病気のことを公表し、チャリティーTシャツや帽子の販売、講演活動を通じて支援が寄せられた。その収益は闘病費用に充てられている。SNSでの闘病と練習の日々の発信は国内外に広がり、開会式後には海外選手がTシャツを買いに訪れ、互いの健闘を誓い合う姿もあった。
「一人で抱え込もうとしていた時期は本当にしんどかった。でも、人と話し、応援が届くことで、また走りたい、世界で闘いたいという気持ちが湧き上がってきました。コミュニケーションが免疫力にも、気力にもつながっています」

大分入り直前、調整に励む副島選手(撮影:越智貴雄)
約11カ月ぶりとなるフルマラソンを前に、副島選手の表情には迷いがない。 「これまでは誰かに勝ちたいとか、記録を出したいとか、そんな目標ばかり持っていました。でも“明日”は楽しみたい。走りながらどんな景色が見えるのか、すごく楽しみです」
そして、応援してくれた人々への思いも語った。 「これまで一緒に走ってきた仲間や、Tシャツを買って応援してくれた方々に元気な姿を見せたい。生きていること、努力を続けていることを伝えるレースにしたい」
人とのつながりを力に変え、再び挑む42.195km。副島選手にとって明日のレースは、単なる競技ではなく、“生きる証”を示す時間となる。
レースは16日10時(ハーフは10時05分)に大分県庁前をスタートする。BS-TBSでは9時55分から大会が生中継される予定だ。
(取材・文:越智貴雄)





