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障害児・者のスポーツ環境づくりへ実践的議論 笹川スポーツ財団がセミナー開催 江戸川区モデルの成果も報告

「障害者の日常的なスポーツ環境構築に向けて」セミナーで、研究成果やモデル事業の検証結果について議論する登壇者たち(撮影:越智貴雄)

障害児・者のスポーツ環境づくりをめぐる最新の研究成果や実証結果が、9日に東京都内で開かれたセミナー「障害者の日常的なスポーツ環境構築に向けて」で報告された。笹川スポーツ財団が主催し、会場とオンラインを併用したハイブリッド形式で行われ、パラスポーツ関係者、自治体関係者や福祉分野の関係者が参加。地域で日常的にスポーツへ参加できる環境をどのように広げていくかについて、実践的な議論が交わされた。

同財団ではこれまでの研究から、障害児・者が継続的にスポーツへ参加できる環境整備には、地域の障害者専用スポーツ施設を拠点(ハブ)とし、近隣の公共スポーツ施設(サテライト)や地域資源とのネットワーク化を進めることが重要だと提言してきた。今回のセミナーは、その提言を実証的に検証した成果を共有する場となった。

まず、笹川スポーツ財団の小淵和也政策ディレクターが「障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究2024」の結果を報告。最新調査では全国に161施設が確認され、同財団では31施設を“ハブ施設”、130施設を“サテライト施設”と位置づけて分析した。利用者数や指導者数、提供事業に大きな差があることが明らかになった一方、複数の事業を幅広く展開するサテライト施設もあり、“潜在的ハブ”としての可能性を持つ施設が存在することが示された。

江戸川区モデルプログラムのプール活動の様子。サポート者と一緒にボール遊びに取り組む参加者(撮影:越智貴雄)

続いて、東京都障害者スポーツ協会と江戸川区と連携して実施した「江戸川区モデルプログラム」の検証結果が紹介された。重度・最重度の障害児を対象に、公共スポーツ施設でプールやスタジオプログラムへの参加が可能かを検証したもので、重度の参加者については、ハブ施設の専門スタッフと地域の人材が連携することで、公共施設におけるプログラム運営が成立し得ることが確認された。

セミナーのまとめとして、小淵政策ディレクターは、公共プールにおいて重度障害者の受け入れが実際に可能である一方、最重度障害者の受け入れには現行のハード面の整備が必要と指摘。さらに、行政だけでなく、保護者、理学療法士、スポーツ指導者、施設スタッフ、ボランティアなど、多様な人材による“地域の人材ネットワーク”が重要であることを強調した。

セミナーの終盤には、江戸川区モデルプログラムに参加した鹿本学園の女子生徒のインタビュー映像が上映された。同プログラムで培った経験をきっかけに、第24回全国障害者スポーツ大会で陸上(車いす)100メートルと200メートルを制したり、プログラムに挑戦した日々が新たなチャレンジへの意欲と成長につながっていった過程が紹介された。この取り組みが一人ひとりの未来を押し広げる力を持つことが印象づけられた。

今回示された提案や知見が、各地域での議論と実践を後押しし、障害児・者の日常的なスポーツ環境づくりを一段進める契機となることが期待される。

取材・文:越智貴雄

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