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10代の新人2人が実戦デビュー。高まる将来への期待 全日本障害者クロスカントリースキー選手権大会

競技前、佐藤コーチ(左)の話を聞く新田のんの(中央)と瀬立モニカ(撮影:越智貴雄)

競技前、佐藤コーチ(左)の話を聞く新田のんの(中央)と瀬立モニカ(撮影:越智貴雄)

 16、17日、「第18回全日本障害者クロスカントリースキー選手権大会」が旭川市富沢クロスカントリーコースで開催され、第1日目にはバイアスロン競技、第2日目にはクロスカントリースキー競技が行われた。大会には、2010年バンクーバーパラリンピックで金メダルを獲得した新田佳浩(立位)や、佐藤圭一(立位)、出来島桃子(立位)のパラリンピアンが出場し、レベルの高いレースが繰り広げられた。さらに、女子座位の部ではともに10代の新田のんの、瀬立モニカの新人2人が実戦デビューを果たし、シットスキーヤーとしての第一歩を踏み出した。

 2日間の競技日程を終えた2人に、初めて大会に出場した感想を訊くと、新田は「ミスをして、すごく悔しかった。でも、楽しかったです!」とにっこりと笑顔を見せた。一方、瀬立はというと、「辛かった!めちゃくちゃ精神面をやられましたね」と言いながらも、その表情は明るかった。

 2人がシットスキーを始めたのは、昨年12月。日本障害者クロスカントリースキー協会からの誘いを受け、同協会の強化合宿に参加したのがきっかけだった。始めた当初は、雪上でのストックの使い方に苦戦し、前に進むこともままならなかった2人だが、もともと瀬立はパラカヌー、新田は車いすマラソンをしていることもあり、上達は速かった。

力走する瀬立モニカ(撮影:越智貴雄)

力走する瀬立モニカ(撮影:越智貴雄)

瀬立、シットスキーがリオ出場の後押しに

ャネイロパラリンピック出場を目指している。3月の国内選考会を経て、5月には世界最終予選に出場する予定だ。そこで3位以内に入れば、リオ行きが決まるという、まさに大一番が控えている。

 そんな彼女が、今回シットスキーを始めたのには理由がある。カヌーとシットスキーの動きは酷似しており、カヌー選手にとってシットスキーは冬場のいい筋力トレーニングになるからだ。障害者クロスカントリースキー日本チームの荒井秀樹監督も「シットスキーをしたことによって、確実にパラカヌーの選手としてもレベルアップしていると思います」と太鼓判を押す。

 瀬立は今年4月には、筑波大学体育学部に進学する。車椅子の選手が、同大のスポーツ推薦で合格したのは初めてのケースであり、彼女の能力の高さがうかがえる。現在は、パラカヌーでのパラリンピック出場のことが最優先という瀬立だが、障害者クロスカントリースキー界にとっても、注目の逸材であることは間違いない。

「彼女は非常に器用で、何をやらせても吸収が早い。パラカヌーをやっているだけに、シットスキーが上手くなる素質は十分に見てとれます。鍛えれば、非常にレベルの高い選手になります」と荒井監督も大きな期待を寄せている。

 激しい降雪の中、力走する、新田のんの(撮影:越智貴雄)


激しい降雪の中、力走する、新田のんの(撮影:越智貴雄)

練習熱心で負けず嫌いの新田。地元札幌からも期待

 一方、北海道札幌市出身で専門学校1年の新田は、2026年に冬季オリンピック・パラリンピック開催を目指す札幌にとって、大事な人材のひとりと見られている。彼女は、小学3年から車いすマラソンを始め、大会にも出場してきた。2014年には国内最大の車いすマラソン大会である「大分国際車いすマラソン」に17才で初出場した。こうした車いす陸上で鍛えた腕力やスタミナは、シットスキーでも十分に活かされている。

 また、技術的にも確実に進歩している、と障害者クロスカントリースキー日本チームの佐藤勇治コーチは言う。
「始めは車いすの操作と同じように、腕を回すようにしてストックを使っていたんです。でも、それではなかなか前に進むことはできません。シットスキーでは、上から下に力を伝える動きが必要です。それがだいぶできるようになりましたね。その証拠に、今回のクロスカントリーでは、上りの途中でもう一段ギアを上げることができたんです。段々と、楽しさを覚えてきていると思いますよ」

 競技を始めたばかりの本人にとっては、パラリンピックはまだ遠い存在だ。だが、「やるからには」という気持ちはあるという。性格もいたって真面目で、練習熱心。荒井監督によれば、練習ノートもきちんとつけているという。加えて、第2日目のクロスカントリーでは転倒して大きくロスしたことに対して、ゴール後に思わず悔し涙を見せたほど、負けず嫌いな一面も持っている。荒井監督は、そんな彼女の性格が、競技者として伸びる源になると考えている。「できる限りのサポートをして、世界レベルの選手に育てたい」と荒井監督。瀬立同様、将来を嘱望している。

 長濱一年ヘッドコーチも、「シットスキーをやることで、パラカヌーや車いすマラソンにプラスになるはず。なので、2人にはもっとシットスキーに興味を持ってもらって、冬はシットスキーの選手として続けてもらえたら嬉しいなと思います」と語る。

表彰台でメダルをもらい笑顔の新田のんの(右)と瀬立モニカ(撮影:越智貴雄)

表彰台でメダルをもらい笑顔の新田のんの(右)と瀬立モニカ(撮影:越智貴雄)

 2014年ソチパラリンピックでは、当時高校2年の江野麻由子が日本人選手として3大会ぶりに女子座位に出場し、注目された。江野に続いて、瀬立、新田が台頭すれば、日本の障害者クロスカントリースキー界が盛り上がることは間違いない。同世代3人への期待は、今後ますます高まることが予想される。

文:斎藤寿子

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