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パラコラム

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鈴木朋樹、磨きをかけてきた“スタート力”で世界に挑む! パラ陸上世界選手権2019

トラックで力走を見せる鈴木(撮影:越智貴雄)

 今年4月に開催された「ロンドンマラソン2019(兼 車いすマラソン世界選手権)」で3位に入り、日本パラ陸上では東京パラリンピック出場内定の日本人第一号となった鈴木朋樹(トヨタ自動車)。東京でのメダル候補として、今、最も勢いのある車いすランナーのひとりだ。11月には今シーズン最後のレースとなるパラ陸上の世界選手権(UAE・ドバイ)に出場する。東京パラの切符を手にしたなかで臨む世界の舞台。果たして、鈴木にとってはどんな位置づけとなる大会なのか。

自らも驚いたロンドンの結果に感じたトレーニングの手応え

ロンドンマラソン2019で3位に入り東京への切符を獲得した鈴木(左)(撮影:越智貴雄)

 4年に一度しか訪れない世界最高峰の舞台、パラリンピック。その本番を1年後に控えたシーズンの開幕前「(今年は)東京パラリンピックがある2020年だと思って1年間を過ごそうと思いました」と、話している。鈴木は、来年を想定したリハーサルの年にしたいと考えていた。

 まだ一度も経験したことのないパラリンピック。しかも自国開催となる特別な大会は、鈴木にとっては未知の世界そのもの。だからこそ、心身ともに万全の準備が必要だと考えたのだろう。

 その鈴木の頭には“二つの山”が描かれていた。一つは、4月に行われるロンドンマラソン。もう一つは、11月のパラ陸上の世界選手権。どちらもパラリンピックの切符がかかった重要な大会だったが、鈴木が切符獲得として考えていたのはパラ陸上の世界選手権。自らがメインとしている800m、1500m(それぞれT54クラス)のトラック種目で4位以内に入ることを目指していた。

 一方、ロンドンマラソンは結果よりも、自分がどうレース本番を迎えるのか、いわゆるピーキングの方を重視していたのだという。

「今年は何か新しいことに挑戦するのではなく、来年に向けた“リハーサル”のシーズンにしたいと思っていました。なので、シーズンの中で重要な大会を絞り、そこでしっかりと力を発揮できるようにすることがテーマでした。2020年であれば、パラリンピックで最高の状態に臨めるようにする、そのリハーサルをしようと考えていたんです」

 その“リハーサルのリハーサル”がロンドンマラソン。4位以内位という結果が求められる世界選手権に向けての準備に近いものだった。

「ロンドンマラソンでは世界のトップランナーが、パラリンピック1年前の今年はどういうコンディショニングをしてくるのか、ということも知りたいと思っていた」という鈴木。結果を出すという意識よりも、世界選手権、さらには来年のパラリンピックにつながるものを得ることが最大の目的だった。

 とはいえ、もちろん鈴木自身もしっかりと体を絞り、レースに臨んだ。その結果、優勝したダニエル・ロマンチュク(アメリカ)、準優勝のマルセル・フグ(スイス)の(タワーブリッジを抜けた後の)上り坂でのアタックにもしっかりと対応した鈴木は、2人に続く3位でゴール。いわゆる“想定外”の結果に、喜びよりも驚きの方が大きかったという。と同時に、これまでのトレーニングの成果が出たことに、鈴木は大きな手応えを感じていた。

変わり始めた“手応え”から“自信”へ

トラック世界選手権では、鈴木のスタートに注目だ(撮影:越智貴雄)

 では、当初は4位以内に入り東京への切符を獲得する、という結果が求められ、今シーズンの本番と考えていた世界選手権を、鈴木は今、どんなふうにとらえているのだろうか。

 鈴木には、世界選手権での明確なテーマがあった。東京パラリンピックで表彰台に上がるために、不可欠な課題としてきた、スタートだ。

「これまではトップ選手たちに後ろからついていって、あとは最後のスプリント勝負にかける、みたいなレースしかできませんでした。でも、そんな“他人任せ”のようなレースをしていては勝つことはできないことはわかっていました。スタートから先頭を奪って、自分がレースをつくる、くらいでなければいけない。そのためにはスタートでの加速力が必須となる。なので、昨年から重点的に短距離のトレーニングを続けてきました」

 そんななか、今シーズン、大きな手応えをつかんだトラックレースがあった。6月のスイスで開始された国際大会での1500mだ。このレースで鈴木は自己記録を約3秒上回る2分55秒41の好タイムを出したのだ。それは、これまでの自己ベスト更新とは違う意味を持っていた。

「昨年までは、ほかの速い選手の後ろについていく中で結果的に“出ちゃった”自己ベストでした。でも、今年のスイスでの1500mはスタートから自分で勝負にいって、トップクラスの人たちの中に交ざって一緒にタイムを“出しにいった”自己ベスト。他力本願ではなく、ある程度レースを自分がコントロールできたことが何よりの収穫でした」

 実は、2年前の世界選手権では、鈴木はそういうレースができず、力不足を痛感している。800mの決勝、「スタートからいくぞ」と意気込んでいた鈴木だったが、世界のトップランナーたちとの加速力の差は歴然だった。スタートで出遅れた鈴木は、いつものように後ろからついていき、最後のスプリント力で勝負するほかなかった。それ以降、スタートでの加速力の必要性を感じた鈴木は、短距離の速さを追求したトレーニングに注力。あわせて、サポート体制の充実化を図ったのも、この頃だった。体のケアやトレーニングメニューなど、専門的知識を持つスタッフを迎え、いわゆる“チーム”として理想の走りを追求していくことにしたのだ。

 現在では3人のトレーナーについてもらい、体のケア、呼吸法を用いたトレーニングによる体のリセット、フィジカルトレーニングと、それぞれの専門分野ごとに担当してもらいながら、体づくりを行っている。これまでほとんど意識してこなかった下半身についても、今はバランスボールを使ったトレーニングなど強化を図っている。また、今年4月からはトレーニング科学を専門とする桐蔭横浜大学の桜井智野風教授にトレーニングメニューを作成してもらっている。

 さらに、代表合宿などでは日本屈指のスプリント力を持つ車いすランナー生駒知季と練習を共にし、スプリンターの加速力を体感しながら習得してきた。

 そうしたなかでつかんだ6月のレースでの“手応え”は今、“自信”に変わりつつある。

「100mを専門とする車いすランナーでも、コンスタントに14秒台を出せるランナーはそうはいません。でも、最近では僕は常に14秒台を出せるようになってきているんです」

 そんなかで迎える世界選手権。個人種目としてエントリーしている400m、800m、1500mは、いずれもスタートでの加速力が世界にどこまで通用するかがカギを握る。なかでも最も重要視しているのは800mだ。

「400m、800mという短い距離では、最初の100mの位置取りというのが、とても重要です。1500mや5000mのようにローテーションをするような余裕はないので、スタートでの順位がほぼ結果につながると言ってもいいくらいです。これまでは、まずスタートで力不足を感じていたのですが、今回のレースではそこで勝負できる。それくらいの力はついていると思っています。特に、メインとしている800mではトレーニングの成果を出して勝ちにいきたいと思っています」

 東京パラリンピックに向けた、最後の“世界一決定戦”。その舞台で表彰台に上がり、“リハーサル”のラストを最高のかたちで締めくくるつもりだ。

(文・斎藤寿子)

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