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競技レポート

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欧州王者イギリスの「個」を上回った日本の「和」 車いすラグビーワールドチャレンジ2019

予選プール1位通過を決め、笑顔の日本チーム(撮影:越智貴雄)

 16日に開幕した「車いすラグビーワールドチャレンジ」。世界の強豪8カ国が集結したビッグイベントに、会場の東京体育館には連日大勢の観客が詰めかけ、大声援が送られている。そんななか、初戦で世界ランキング2位の日本は同10位のブラジルを破り、さらに同6位のフランスにも勝って連勝し、大会2日目の17日には準決勝進出を決めた。そして大会3日目の18日には、予選最終戦に臨み、ヨーロッパ選手権覇者の同4位イギリスと対戦。57ー51で破り、予選プール1位通過を決めた。

最後のプレーで見えた日本の強さ

集中力を切らさないプレーを見せ続けた池崎(撮影:越智貴雄)

 日本とイギリスはチームのスタイルがまったく異なる。車いすラグビーの中では障害の軽いハイポインター(持ち点3.0、3.5)なみの機動力をもつミドルポインター(2.0、2.5)を起用した「バランスライン」(「0.5、2.0、2.5、3.0」など)を柱とするイギリスは、コート上の4人のうち3人が縦横無尽に動き回る。スペースを見つけて次々と走り込こむなかでアウトナンバーのシーンをつくって得点する「個」のチームと言える。

 それに対して日本は4人の組織的プレーを得意とする「和」のチーム。特に今大会は、日本は「0.5、1.5、3.0、3.0」もしくは「1.0、1.0、3.0、3.0」のハイポインターとローポインター(0.5~1.5)とのユニット「ハイローライン」を主力としている。そのため、ハイポインターのプレーのサポート役としてローポインターが担う役割は大きく、またときにはハイポインターが相手を引き寄せたなかでローポインターがトライを決めるなど、4人のコンビネーションが重視されている。

そんな「個」対「和」の様相を呈した両チームの試合は、互いにそれぞれの力を存分に発揮するかたちで、がっぷり四つの展開に。前半は互いに譲らず、30-30で試合を折り返した。

 しかし第3ピリオドに入ると、「有効なマッチアップを見出し、相手を追い込んでコントロールする」日本のディフェンスが機能したことによって、イギリスは得意のパスの精度が落ち、ターンオーバーを繰り返した。そして、そのチャンスを逃さずに得点につなげた日本は、44-40とリードした。

 最終ピリオドは疲労からか、それまで機敏だった動きに陰りが見え始めたイギリスに対し、日本は攻守にわたって強度を落とすことなく果敢なプレーに終始した。なかでも印象的だったのは、残り5秒で池崎大輔がトライを決め、日本が57-51とリードした場面。勝利をほぼ手中に収めたにもかかわらず、日本はそれまでと変わらないプレーを見せ、最後は池崎が手を伸ばして相手のパスをブロック。試合終了のブザーが鳴るまで集中力を切らさない好プレーに、日本の強さが映し出されていた。

キャプテン池が感じた疲労に示されたハードさ

チームを引っ張る、キャプテンの池(撮影:越智貴雄)

 この試合、チーム最長のプレータイムで勝利に導いたのは、キャプテン池透暢だ。しかし、実は第1ピリオドの途中ですでにこれまでにない疲労を感じていたという。「これでは最後までもたないかもしれないと思いました」と池。要因は、緊張感と会場にこだまする大声援に応えたいとうい気負いからきているのだろうと考え、呼吸を整えるなど自分自身をコントロールすることに努めた。さらに、第1ピリオドの残り2分半のところでベンチに下がったことでリセットすることができ、その後は自分自身のプレーを取り戻した。

 池がそれだけの疲労を感じるほど、いかに厳しい試合だったかがわかる。だからこそ勝利したことの価値は大きく、決勝トーナメントに向けてチームに自信をもたらしたに違いない。キャプテンが「今日のみんなのハードワークは素晴らしかった」とチームメイトを称えれば、4大会連続でパラリンピック出場を誇る島川慎一も「チーム力は確実に上がってきている」と手応えを口にした。

 大会4日目の19日は、決勝進出をかけてオーストラリアと対戦する。現在、世界ランキング1位のオーストラリアと同2位の日本は、力が拮抗している。昨年8月に行われた世界選手権では予選でオーストラリアが勝利を挙げたものの、決勝では日本が接戦を制し初優勝に輝いた。一方、今年9月のアジアオセアニアチャンピオンシップスでは予選では日本が延長戦の末に勝ち、一方、決勝では敗れて準優勝となった。

 まさに“因縁のライバル”との対決となった準決勝は、世界の頂への最大のヤマ場となる。

(文・斎藤寿子)

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