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自転車の藤田、ロードへの弾みとなったトラック リオパラリンピック

力走する藤田=9日、パシュート(撮影:堀切功)

力走する藤田=9日、パシュート(撮影:堀切功)

「思い切り走れました。しっかりと気持ちを持って走ることができたので、そこは満足しています」
 リオデジャネイロパラリンピック4日目の10日、自転車のトラック男子1000メートルタイムトライアルに出場した藤田征樹(日立建機)は、レースについての感想を訊かれると、そう言った。結果は11位と、同種目では2大会ぶりの表彰台とはならなかったが、それでも4年前とは全く違う藤田の姿がそこにはあった――。

 2012年ロンドンパラリンピック、藤田にはこの種目での金メダルが期待されていた。前回大会の2008年北京パラリンピックでは、初出場ながら銀メダルを獲得するという快挙を成し遂げていたため、それは自然なことだった。

 しかし、北京とロンドンとでは、藤田の環境はまるで違っていた。2010年にルールが改正となり、障害の程度によって振り分けられるクラスの変更を余儀なくされた。それは藤田いわく「ボクシングで言えば、階級がひとつ上がったと同じようなこと」だった。そのため、より厳しい戦いを強いられた彼は、まずは勝負の土台に上がること、つまりほとんどゼロの状態から再出発しなければならなかった。

 そして2年後のロンドパラリンピックシーズン、藤田は自らの実力が伸びてきているという手応えを感じていた。しかし、それは金メダルに到達するには道半ばの状態だった。いい感触を得ながらも、果たして世界最高峰の大会で、どれだけ勝負することができるのか、それは藤田にも未知数だった。

 そんな不安が的中したのか、大会前半に行われたトラック種目では、不甲斐ない結果に終わった。特にタイムトライアルでは自己ベストに0.3秒にまで迫る好タイムを出しながら20位と、世界との差を痛感せざるを得ない結果となった。

「いったい、オレはロンドンまで何をしに来たんだろうか……」
 そう思うほど、藤田はひどく落胆した。

 だが、今回は違う。結果としては入賞にも届かなかったが、それでもレース後の藤田には、一切の迷いはなかった。

「ここに何をしに来たのか」
 それが今の藤田には明確にあるからだ。だからなのだろう。レースでの突然のアクシデントにも藤田は全く動揺することがなかった。

 ピッ、ピッ、ピッ、ピー。スタートの合図とともに、藤田は勢いよく飛び出す……はずだった。ところが、スタート直後に藤田の動きが止まり、会場にはパン、パーンという試合中断の合図が鳴り響いた。いったい、何が起こったのか――。

 藤田の説明によれば、タイヤ部分のホイールがずれて、フレームと接触していたため、ペダルの回転が重くなってしまったという。すぐにその場でメカニックが調整をし、間もなく藤田は再スタートを切った。

 その時の心理状況はいったどうだったのか――。記者の質問に対して、藤田はまるで何でもない様子で、こう語った。

「今までこういうアクシデントが起きたことはなかったので、『こんなところで起きるもんなんだなぁ』と驚きました。でも、特に動揺はなかったです。もう一度、予定通りのレースのイメージをすればいいだけでしたから」

 いつも通り、淡々と答える藤田。「肝が据わる」とは、まさにこういうことを言うのだろう。

 トラックは、明日11日(現地時間)のチームスプリントが最終種目だ。それが終われば、14日(同)からはロード種目が始まる。2015年ロード世界選手権で金メダル(ロードレース)を獲得している藤田にとって、リオでのメインと言っていいだろう。

「トラックでは、しっかりと思い切り走ることができたので、もう一度自分への自信を高めて臨みたいと思います」

 ロードでは「ただ一人の勝者」を目指す。

(文/斎藤寿子)

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