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パラコラム

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「このCMがパラリンピックを変えた!」 ~ロンドンパラリンピックを成功に導いた秘策~

イギリスロンドンにある国営放送局「チャンネル4」本社(撮影:越智貴雄)

イギリスロンドンにある国営放送局「チャンネル4」本社(撮影:越智貴雄)

 4年前、ロンドンから発信されたあるCMに世界中の人が釘付けになった。イギリス国営放送チェンネル4が放った、今まで見たこともないパラリンピックCM「Meet the Superhumans」は、まさに革命だった。そして、「Meet the Superhumans」は、世界最高峰のクリエイティブが集う広告の祭典、「カンヌライオンズ 2013」でグランプリを受賞した。
今年4月、このCMのマーケティングリーダー(Head of Marketing)を務めたジェームズ・ウォーカー(James Walker)氏に、話を聞く機会を得た。

Q.このCMをつくるにあたり、スタートにあった思いはどのようなものでしょうか。

A.まずスタートにあった趣旨は、「障がいに対する人々の思いを変えたい」ということでした。そのためには、ability beyond disability (=障がいの向こうにある能力、障がいを超えたところにある能力)に、いかに注目してもらえるかがポイントでした。しかし、それを形にするのはそう簡単なことではありません。制作チームは、長い時間をかけて話し合い、考えました。そして、一人の障がい者がどのような体験を経てパラリンピック選手になったのか、その旅路を視聴者にも共に歩んでもらおうと考えたのです。

Q.その体験は個々人、違いますね。

A.そうです。その旅路は、パラリンピック選手の数だけあります。ご存知かと思いますが、CMの途中で画面が止まります。そして、次の瞬間からさまざまな旅路のスタートが映し出されます。例えば、赤ちゃんの状態についての知らせを受ける親、紛争のシーンや自動車事故など、パラリンピック選手たちが誕生するまでの旅路のスタートを明確にすることで、視聴者にも旅の始まりから一緒にいてほしかったのです。

Q.その瞬間から視聴者は惹きつけられました。

A.それは同時に、パラリンピック選手たちのアスリートとして決してオリンピック選手に引けを取らないトレーニングを実践している姿を映像化したからだと思います。選手たちの決心や闘志、努力、汗と涙、そして力強さ……これらを120%見せるためにも予算を抑えずに、通常のスポーツCM撮影と同等レベルの技術を使って撮りました。一番こだわったのが、選手たちが上からカメラを見下ろす姿勢。この挑戦的な態度から、「あわれまないでくれ。私たちはあなたたち以上にすごいことを成し遂げているのだから」という彼らの意志が伝わったと思います 。
そしてエンディングで、「人間について自分が知っていると思ってきたことをすべて忘れろ。この人たちはあなたの想像を超えた人間の能力を見せてくれるのだから」と入れました。つまり、彼らは超人だと明言したのです。

Q.結果、素晴らしいCMとなりましたが、制作意図はIPCや組織委員会に受け入れられたのでしょうか。

A.もちろん、時間をかけて話し合いをしました。視聴者を旅の同伴者にする以前に、関係者全員を「旅」に連れて行く必要がありました。一番、議論になった部分は、選手個々人のストーリーを出すことについてでした。純粋にスポーツだけに絞ったほうがいいのではないかという意見もありました。
しかし、障がいと障がい者スポーツについてのイギリスの一般市民が今まで抱いていた認識を根底から覆し、理解してもらうためには、イギリスで開催されるパラリンピックは最高のチャンスであることを強調しました。実は、一番こだわったのは、一般市民の障がい者スポーツに対する思いよりも、障がい全般に対する認識や態度を変えてもらいたいということでした。
だから、スポーツに絞らないで、個々の選手の旅のスタートが重要だったのです。人々の意識を(障がい者)スポーツに向けたいなら、ここを外してはならないと私たちは主張しました。最終的には、過去とはまったく違うアプローチで大会を語ろうとするコンセプトを理解してもらいました。

Q. しかし、説得する必要のある関係者は他にも多くあったと思います。

A.巨大なプロジェクトでしたから、当然多くの関係者がいました。大会の放映権はチャンネル4が持っていましたが、大会を管理するのは、ロコッグ(LOCOG)という巨大組織でした。さらに、国際パラリンピック協会と、そして選手たちをサポートする英国パラリンピック協会など、多くのステークホルダーが存在していました。
それらすべてと良い関係を築き、常に連絡を怠らず、私たちの仕事に満足してもらうように務める必要がありました。そのためには、定期的にステータス・ミーティングを設けて、大いにアイデアをぶつけ合いました。なぜなら、前述した障がい者への理解は大前提でしたが、大会をどのようにイギリス市民に見せるか、そしてイギリスの選手たちがどう描かれるのか、といったことも大切なことだったからです。
しかし、多くの時間を共有したおかげであれだけの大所帯だったにもかかわらず、お互い妥協することなく、プロジェクトを成功に導けたと思っています。

Q. 成功に導けた要因として、ミーティング以外には何かありましたか?

A.リサーチです。私たちは、運営委員会と一緒に、実に多くのリサーチを行いました。パラリンピック開催の2年前、2010年ごろだったと記憶していますが、障がい、そして障がい者スポーツに対する一般的な認識はどういうものなのか、ということについていろいろな角度からリサーチをしたところ、「パラリンピックが存在するのはいいことだし、障害者スポーツがあるのもいいけれど、自分は別に見に行こうとは思わない。特にワクワクもしない」というものでした。
印象としては、障がい者をちょっと見下したような、あわれんでいるような感じです。ただ、このことが分かったのは、CMをどう見せるかという点において、大変有意義でした。これで、(障がい者)スポーツを、とてもポジティブな形に仕上げよう、と方向性が決まったからです。つまり、「エキサイティングだよ、この人たちは強くて、アスレチックな、すごい人たちだよ」とね。

Q. それで、選手たちが堂々としてたんですね。

A.そうです。さらに言うと、CMに起用する選手もイギリスの選手にこだわりました。当時、イギリスのパラリンピアンで知名度があったのは、北京大会で活躍した水泳のエリー・シモンズ選手ぐらいでした。せっかくイギリスで開催するのですから、パラリンピックに対して「ワクワクしない」と答えたイギリス人たちに、自国の選手たちを応援しようという気持ちになってもらいたいと思ったのです。
また、イギリスにはトム・デイリーという若いダイバーがいるのですが、イギリスではダイビングという競技がそれほど人気ではないにもかかわらず、彼の名前は一般大衆によく知られています。なぜなら、オリンピックでも人気の低い競技については、個人のストーリーを利用して広く知らせるという戦略を取りますが、彼の場合も競技に打ち込めるように、父親が持ちうる愛情のすべてを注いだという父と子のストーリーを見せたからです。これが彼の名前を、ひいてはダイビングを一般大衆に知らしめたことになり、スポーツマーケティングにおいて成功するためには、いかにストーリーが大事であるかといういい例です。
だから、私たちはパラリンピック選手たちを器用するにあたり、スポーツだけでなく、ストーリーを大事にしたかったのです。

Q.しかし、一方で事故や戦争シーンが映し出されることに対して、意見はありませんでしたか。

A.もちろん批判されるかもしれないということは頭に置いていました。でも、それは理由もなくショッキングな場面を見せる場合だと判断しました。大事なのは、話の筋道です。それがきちんとしていれば、理解していただけます。ですから、私たちはあの広告の中で、障がい者の力強いイメージを筋道の通ったストーリーに仕上げて見せました。
ただし、戦地などのシーンは執拗にせず、数秒という短時間にまとめました。それでも、パラリンピック選手たちが何を背負い、その上でパラリンピックに出るためにいかにトレーニングを積んでいるかを理解してもらえるには十分な時間だったと思っています。
実際、多くの人の理解を得られました。うれしかったのは、一般の親御さんたちが障がい者や障がいについてを、子どもたちに説明する際にCMを役立てたということを聞いた時です。また、障がい者の人たちにとっても勇気にもなったようです。

Q.あのCMには日本も刺激を受けたのは事実です。2020年の東京でも、一般市民の意識や考え方を変える機会になる広告を打つ必要があります。

A.そうですね。私たち、チャンネル4は公共放送なので、社会の問題についていろいろな考え方があることを示したり、人々の固定した考えに挑戦したりする義務があります。なので、チャンネル4にとっても、パラリンピックは人々の障がいや障がい者スポーツに対する見方を根本的に変えることができる生涯一度の絶好のチャンスだと考えました。
 パラリピアンだけでなく、障がいを持つ人々の可能性について、多くの市民にこれまでとは違う考え方をしてほしかったのです。

Q.その意図はあのCMによって多くの人に届いたのではないですか。

A.私たちの根底にある思いは、先ほども言いましたが、障がい者や障害者スポーツに対しての市民の認識をガラッと変えてほしいということでした。CMキャンペーンはその一環でしかありません。そして、2週間、障がい者たちが偉業を成し遂げる姿を見に来てもらうことが重要でした。そして、結果的に2012年、オリンピックだけでなくパラリンピックにもすっかり夢中になったことは、国全体にとって非常にポジティブな体験となりました。

Q.CMの影響以外に、ロンドンパラリンピックが盛り上がった理由は何だったのでしょうか。

A.その理由はたくさんありますが、一つ言えるとしたら、パラリンピックをオリンピックと同等・同格に扱ったことだと思います。マーケティングはもちろん、競技の放映時間もオリンピックと同じだけ時間を取りました。これは前代未聞のことでした。
パラリンピックという言葉の「パラ」とは、「並行して(並んで)」ということを意味します。だから平等を心掛けたのです。「これはとても大事なイベントですよ。きっと夢中になるでしょう」と人々に訴え、考え、感動し、興奮してもらえるようなものをつくりあげていったのです。
このように私たち制作者サイドが、努力をして地道に訴えていけば、イギリス人はきっと心を開いてくれると信じていましたが、その通りになりました。次は日本です。自国での開催は、多くの人の障がい(者)に対する考え方を変え、パラリンピックがいかに魅力のある、興奮するスポーツイベントであるかを分かってもらう絶好のチャンスになるはずです。

―ありがとうございました。

今回のリオに向けてもCM「We’re The Superhumans」を作成している。こちらも軽快なリズムに乗せてパラリンピアンが躍動する。必見だ。

(聞き手/越智貴雄・編集/棟石理実)

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