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パラコラム

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瀬立モニカ 前後半で明暗が分かれた予選レース

予選で完璧なスタートを切った瀬立(撮影:越智貴雄)

 東京パラリンピック競技9日目の9月2日、海の森水上競技場ではカヌー・スプリントの予選が行われた。前回の2016年リオデジャネイロパラリンピックに唯一のアジア人として出場し、今回が2大会目となった瀬立モニカ(女子KL1)は、1分00秒180で組4着。ストレートでの決勝進出とはならず、4日(9時30分)の準決勝に臨む。

急激な気温の変化に難しかったレース前の準備

「よしっ!」
 思わずそう口に出してしまいそうになるほど、スタートは完璧だった。瀬立自身も「スタートダッシュは決め切れました」と手応えを口にした。右端のコースだった瀬立は、左隣に並ぶ選手たちが見えなかったことで、自らがスタートでリードしたことがわかったという。

 雨天ではあったが、風はそれほど強くはなく、レース条件としては悪くはなかった。そんななか、パドルを漕ぐ瀬立の腕の動きにはしなやかさが感じられ、スピードにも乗っていることが、遠くの記者席からもうかがえた。瀬立を含めた3人での先頭争いが繰り広げられ、ストレートで決勝進出となる1位通過も現実味を帯びていた。

 ところが、ちょうど中間の100mを過ぎたあたりから失速し始め、徐々に先頭争いの2人から遠のいていった。さらには後ろから追いあげてきた選手との距離が一気に縮まり、ラスト20mのところでかわされてしまった。

 4着という順位以上に、瀬立がショックを隠し切れなかったのはタイムだった。報道陣から1分を切っていないことを知らされると、「1分でしたか!?」と驚きの声をあげた。

「悔しいですね。予選1位通過を狙っていたので、この風でもだいたい56秒くらいを出さなければいけないかなと思っていたのですが……。ここまで情けないとは思っていなかったです」

 決して調子は悪くはなかったという瀬立。自らのパフォーマンスを発揮できなかった理由の一つとして、激しい気温の変化を挙げた。

「数日前からは10度くらいも気温が下がり、しかも雨ということで、ウォーミングアップの仕方も考えながらやったつもりではあったのですが……。暑熱対策は万全にやってきたのですが、逆に防寒対策の面ではちょっと準備が甘かったかなと思います。100mを過ぎてから急に体が動かなくなってしまいました」

予選のスタート前、少し緊張している様子を見せていた瀬立(撮影:越智貴雄)

 次のレースは、4日に行われる。準決勝で3位以内に入れば、同日の決勝に進出することができる。準決勝と決勝の間隔は、約70分。首位通過を目指してきたが、準決勝進出する時のことも考え、70分後の2レース目にも力を発揮するシミュレーションを行ってきた。 

「次はしっかりと勝ち切るという強い気持ちを持って戦いたいと思います」

 国際大会で1分を切らなかったレースは、ここ数年にはなかっただけに、悔しさも一入だろう。レース後のインタビューは終始和やかな雰囲気で行われたが、笑顔の裏にはリベンジへの闘志が煮えたぎっていたに違いない。次こそチャームポイントである“モニカスマイル”が見られるレースを期待したい。

(文:斎藤寿子)

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