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パラコラム

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東京パラ終われば興味なし? 一部大手メディアは記者派遣せず 課題山積で3年後は日本開催【中国・杭州アジアパラ大会閉幕】

盛大に行われた杭州アジアパラ閉会式(撮影:越智貴雄)

 中国・杭州で開催された第4回アジアパラ大会が10月28日、7日間の熱戦を終えて幕を下ろした。国別の金メダル数は日本が42個で、中国(214個)、イラン(44個)に次ぐ3位。総メダル数は中国(521個)に次ぐ150個の2位だった。

 杭州では競技の様子がテレビやインターネットで連日放送され、会場にはたくさんの観客が集まった。施設はどこも国際大会を開催するにふさわしく、開会式と閉会式はオリンピック・パラリンピックのセレモニーを見ているような華やかさだった。

 各競技場では、慣れない土地で言葉もわからず戸惑う記者にボランティアが積極的に話しかけてくれた。道案内を頼むと、目的の場所まで一緒に歩いてくれたことが何度もあった。杭州大会の組織員会は、約3万7千人のボランティアを集め、そのほとんどが杭州市がある浙江省の大学に通う学生だった。ある日本人選手は「杭州はすぐにでもパラリンピックを開催できる」と太鼓判を押すほど、大会運営は順調に進んだ。

杭州アジアパラ大会閉会式。フラッグハンドオーバーセレモニーで大会旗を受け取った大村秀章知事(撮影:越智貴雄)

 次回は愛知県と名古屋市の共催で2026年に開催される。日本でアジアパラ大会を開催するのは初めてだ。しかし、杭州大会の規模の大きさに圧倒され、日本人関係者からは「愛知・名古屋大会は大丈夫か」と心配する声が出ている。

 すでに課題は山積している。愛知県と名古屋市は当初、アジアパラ大会の必要経費を150億円と見積もっていたが、200億~230億円まで積み上げることを決めた。アジア大会を含めても予算不足を解消できず、大規模な選手村の建設は断念。ホテルなどの既存の宿泊施設を使用する方針だ。

 ある選手は、愛知・名古屋大会で期待することを聞かれると「ここ(杭州大会)と同じ規模感でやってくれたらうれしい。選手村が(建設できない)と言ってますけど、それならやらない方がいいと思う」と言い切った。

 あえてこのような発言をしたのは、大会経費の予算不足ばかりがニュースで話題になっているからだろう。杭州は、アジア大会とアジアパラ大会を差別することなく、ほぼ同規模で開催することにこだわっていた。それが両大会の最大のレガシー(遺産)になるとのメッセージをあらゆる場面で発信していた。

 ところが、日本からそのようなメッセージは伝わってこない。8日のアジア大会閉会式では、愛知・名古屋大会の映像紹介と一緒に現地でダンスパフォーマンスが披露されたが、28日のアジアパラ大会閉会式は約3分半の映像のみ。小さなことかもしれないが、こういった扱いの違いが選手や大会関係者を不安にさせている。

男子車いすバスケ決勝戦、日本vs.韓国戦。韓国のテレビ局が取材に訪れていた(撮影:越智貴雄)

 メディアの姿勢にも疑問が残った。2021年の東京パラリンピックでは、テレビも新聞も「多様性の象徴」としてパラアスリートを積極的に取り上げていた。それが、今大会では一部の全国紙が記者の派遣を見送った。物価が上がっているとはいえ、杭州では今でも1万円以下で宿泊できるホテルはある。それでもアジア大会を取材した記者を全員引き上げたことは、「パラスポーツを報道する価値はない」と判断したのだろう。

 テレビ局では、公共放送であるNHKですらカメラクルーを派遣しなかった。前回の2018年ジャカルタ大会ではアナウンサーを派遣した局もあっただけに、その落差が目立った。日本と韓国が一進一退を繰り返し、ラスト1分14秒での勝ち越しゴールを決めて金メダルを獲得した男子車いすバスケ決勝も、日本では録画放送もなかった。SNSでは日本が優勝を決めた後、テレビ局がまったく放送しないことに落胆する声が相次いでいた。

 テレビ局が放送できなかったのは、放映権料など複雑な問題もからむ。それでも、車いすバスケはパラスポーツの中でも人気の高い競技の一つ。決勝が終わった後、会場では韓国のテレビ局が取材をしていて、日本人選手にも翻訳アプリを使いながら話を聞いていた。少ない人員と予算の中で必死に取材をしている様子を横から見ていると、一部メディアのパラスポーツ報道は、東京パラで終わったと思わざるをえなかった。

 記者の派遣を見送ったのは「視聴率が取れない」「読者の関心が低い」「ネット記事にしてもPVが取れない」が理由だろう。それは本当だろうか。

 今大会で配信した記事の中には、ヤフーニュースのスポーツ部門で10位以内に入ったものもあった。大会開催中にはプロ野球のドラフト会議があり、テレビも新聞メディアも一大イベントとして放送していた。大量のドラフト関連記事に埋もれることを心配していたが、記事を出せば一定のPVが確保できたことは、日本でもパラスポーツの関心が高まっていることを感じさせた。

 インターネット記事のPV数は、テレビの放送内容と連動する傾向がある。アジア大会と同規模とまでは言わないまでも、アジアパラ大会でも映像を伝える報道がもっとあれば相乗効果が期待できただけに、一部メディアの「撤退」の影響は大きかった。

 人気スポーツであるプロ野球のドラフト会議に取材の重心を置くことは理解できる。かくいう私も、杭州からドラフト速報を見て、ひいきの球団が3回連続で1位指名選手のクジを外してショックを受けた一人だ。それと同時に、ドラフト会議の取材に大量の記者を動員しているのに、一人も杭州に派遣しないのは「経費」や「経営効率」以外の別の理由もあるのだろうと感じた。

多くのボランティアスタッフが大会の運営を支えた。写真はメインプレスセンター内のボランティアスタッフ(撮影:越智貴雄)

 1896年にアテネで開催された第1回オリンピックは、女性の参加が許されなかった。それも、歴史を重ねて女性の参加が徐々に進み、来年開催のパリ・オリンピックでは、出場選手数の男女比が同じになる予定だ。今では、障害者が参加するパラリンピックもオリンピックと同等に扱うことが世界の潮流だ。

 だからこそ、2021年に東京パラが開催された時、パラスポーツの報道に関わっていたメディア関係者からは「東京パラ以降も報道をしないと」と話す人が多かった。実際に、今でも報道を続けているメディアはたくさんある。「撤退」したメディアの中でも、現場の記者から「なぜ、アジアパラ大会に記者を派遣しなかったのか」という抗議の声が出ているとの話も聞いた。大会運営だけではなく、メディアの中にある両大会の不当な扱いの差も解消しなければ、愛知・名古屋大会の成功はない。

 既存施設を上手に使用して大会経費の節減させることは、素晴らしいことだ。国によって事情は異なるのだから、杭州大会と同じことをする必要もない。一方で、経費節減の結果、パラアスリートだけが不当な扱いを受けることがあってはならない。そのことを注視していくことは、今大会を取材した記者たちに託された責任でもある。

文:西岡千史

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