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パラコラム

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JK義足アスリート躍動の漫画「ブレードガール」とは?

「ブレードガール」第1巻(2019年1月発売)表紙 (C) 重松成美/講談社

 学生が持つスマホ、サラリーマンが開くノートPC、料理人が握る包丁、美容師が持つハサミ、写真家が抱えるカメラ…。日々の生活や仕事をする時、誰しもが手放せない相棒(パートナー)を持っているだろう。
 漫画「ブレードガール~片脚のランナー~」の主人公・鈴(リン)にとって、走るための相棒は義足だ。雑誌「BE・LOVE」に連載中の「ブレードガール」は、骨に悪性腫瘍が発生する骨肉腫によって片足を失った女子高生・鈴が、競技用義足であるブレードとの出会いによって人生が大きく変わり、成長していく青春パラスポーツ漫画だ。

練習会後、練習に参加したメンバーがファミレスで楽しそうに最新号を回し読みしていた。写真中央は重松さん(撮影:越智貴雄)

【全速力の漫画家】

「重松さんもだいぶ持久力がついてきたね」
「(原稿の)締切日が迫ってない?大丈夫?」

 汗をかく一人の女性に、選手たちが気さくに声をかける。義足ユーザーを中心とした陸上チーム「スタートラインTokyo」が開く、代々木公園の陸上競技場での練習会の一幕だ。パラアスリートもアマチュアもいるチームに混ざり、全力疾走をしているのが「ブレードガール」の作者・重松成美さんだ。

「いやー、重松さんはびっくりするぐらい徹底的に取材していて、読んでいて面白いよ。やっぱりここに通っているからじゃないかな」。

 ニコッと満面の笑みを浮かべるのは、毎年、パラ陸上の国際大会にもする手塚圭太さんだ。重松さんは「スタートラインTokyo」のチームメンバーと会話を楽しみながら、時折、「スパイクの写真撮らせてもらってもいいですか」とカメラを取り出す。「この場所には毎週、選手に限らず、作業療法士や義肢装具士、サラリーマンの義足ユーザーなど、義足に関係する人たちが一同に集まります。わからないこともここに来れば相談できるし、他愛ない会話から、彼らの感じている事や悩みを知り、作品のアイデアや課題をもらえます。漫画家の私にとっては貴重な時間ですね」と話す。

 練習会が終わると、決まってファミレスで遅めの夕食をとり、刷り上がったばかりの「ブレードガール」の最新号をみんなで笑いながら回し読みする。まるで練習後の部室のような賑やかさだ。

「ブレードガール」を描く重松さん(撮影:越智貴雄)

【次の一歩が踏み出せない人たちに読んでもらいたい】

 重松さんがパラスポーツと出会い、この作品を描いたのは自身の病気がきっかけだった。2017年にガンを患った重松さんは「何かを失う」という自分の感情に出会ったという。そして、その胸には新たな作品を生み出したいという気持ちが芽生えてきたという。

「何かを失った人が、ある出会いがきっかけで人生が変わり、成長していく姿を描きたくなったんです」。

 編集者と話をしていた時に話題になったのがパラリンピックだったという。そして、重松さんが出会ったのは、義肢装具士の臼井二美男さんだった。臼井さんから代々木の練習会を紹介され、選手たちと一緒に走ると、心地良い風を感じピンときた。足を切断して走ることを失いかけた主人公が、義足という相棒を見つけ、再び走って感じた風というストーリーが頭に浮かんだ。重松さんは「キャラクターが生まれる」と直感した。

 さらに、重松さんはデビュー作から描いていた、道具を介して人々がつながる世界観につながっていたことも大きかった。「義足という道具を介して、たくさんの人達が関わっているのがパラスポーツの特徴です。スポーツや義足について、まったく無知な私でしたが、ノンフィクションではない、物語だからこそ伝えられるものがあると思います」。

 9月から連載が始まり、綴られた作品は19年1月には単行本として発表される予定だ。

「これまで出会った人の中には、練習会に来ながらも、競技用義足にためらいを感じて輪の中に入れない人がいました。それが現実かも知れませんが、次の一歩を踏み出すことにためらいを感じている人に、ぜひ読んでもらいたいです」。

 重松さんが自分の目で見て、聞いて、感じた取材現場の空気感を表現した「ブレードガール」のキャッチフレーズは「明日はどんな私になるだろう」だ。重松さんが描く主人公・鈴は、どんな出会いを経て成長していくのだろうか。

(文:上垣喜寛)

ブレードガールの第1話無料試し読みページ
https://be-love.jp/kc/bladegirl/

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