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パラ水泳期待の新星「学ぶことが多かった」辻内彩野 アジアパラ大会2018

表彰式で観客の声援に応える銅メダルの辻内 女子400m自由形(S13=視覚障がいクラス)(撮影:越智貴雄)

 パラ水泳の期待の新星・辻内彩野(22)にとって公式戦として初めて臨んだ「アジアパラ競技大会」。個人で6種目にエントリーした辻内は、そのうち4種目で銅メダルを獲得した。「緊張もしているし、楽しんでもいる」と語っていた辻内。果たして、今大会は彼女に何をもたらしたのか。

金銀のウズベキスタンの選手とともに表彰台へ上る銅メダルの辻内 女子400m自由形(S13=視覚障がいクラス)(撮影:越智貴雄)

引き離された200m以降が課題

 6日に開幕した今大会、水泳は翌7日にスタートした。初日、女子400m自由形決勝(S13=視覚障がいクラス)に臨んだ辻内は、最初の50mで隣のコースのToshpulatova Shokhsanamkhon(ウズベキスタン)と並ぶようにして他を圧倒する泳ぎを見せた。

「彼女とはイギリスのレースで一緒になったことがあって、速いタイムで泳ぐことは知っていました。なので、彼女に続いて泳げばそれなりのタイムが出るんじゃないかと思っていました。最初の100mは理想通りの泳ぎができたと思います」

 しかし、150mを過ぎたあたりから、徐々にToshpulatova Shokhsanamkhoに後れをとりはじめると、そのまま引き離された。それでも、焦りはなかったという。
「彼女が速いことはわかっていたので、離されても慌てずに楽しんで泳ごうと思っていました」

 結果は4分57秒60で3位。最後は同じウズベキスタンのAmilova Fotimakhonに抜かれたのだ。
「最後の50mで8コースの選手が追い上げてきているのは知っていたので頑張ったのですが、力が及ばなかったので、ゴールした瞬間は『あぁ、くそ~』と思いました(笑)」

 そんなさわやかな笑顔が強く印象に残る辻内は、もともとは100m自由形を得意としている。だが、出場を目指す2年後の東京パラリンピックでの辻内のクラスでは50mと400mのみ。そのため、400mにも挑戦している。しかし、現在はまだ200mを泳ぐスタミナしか持ちえていない。

「400mを泳ぎきるだけの体力も練習も足りてはいないので、それが結果として出たレースになったかなと思います」

 トップとの差は、16秒28。あと2年あれば、その差はまったく問題はないと見ている。課題は200mから300mまでの最も苦しい時にいかに粘ることができるか。その強化には早急に取り組みたいと考えている。

辻内の泳ぎ 女子400m自由形(S13=視覚障がいクラス)(撮影:越智貴雄)

6種目中4種目で銅メダル

 競泳2日目、得意の100m自由形に臨んだ辻内は、予選で1分03秒16の大会新記録をマーク。決勝では1分01秒39とタイムを縮めて2つ目の銅メダルを獲得した。だが、本人は決して納得はしていなかった。

「スタートを失敗して結果が出なかった。アジア新を出せば、強化S指定がもらえるということもあって、ちょっと力み過ぎたかなと。気持ちだけが先走って、空回りしてしまいました。8月のパンパシの時にはリレーで59秒台を出していたので、決してアジア新を狙えないわけではないなと思っていたのですが……」

 その後、200m個人メドレーでは銅メダルを獲得した辻内。100m平泳ぎ、100m背泳ぎはともに4位という成績だった。

 そしてレース最終日となった12日、辻内はパラリンピック種目の50m自由形に臨んだ。予選は余力をもって29秒11の2着で決勝進出を決めた。
「決勝では28秒を切って、夢の強化S指定を獲得したいと思います」と語っていた辻内だったが、結果は28秒25。それでも今大会4つ目の銅メダル獲得で大会を終えた。

 今大会で得られたのはメダルだけではない。貴重な“経験”をしたことにあると辻内は語る。

「2年後の東京パラも、ちょうどこれくらいの時期に開催されますが、私はこの時期はあまり調子が良くないことが多いんです。実際、今大会もあまり調子を上げることができなかった6日間でした。集中してレースに臨んでいるのに、スピードに乗れずにタイムが上がらなかった。自分の悪いところがすべて出たかなと思っています。ただ、そういう意味では学ぶことが多かった大会でした」

 元気いっぱいの笑顔がトレードマークの辻内。スイミングスクールのコーチである父親をもち、自身も小学3年生から水泳を始めた。水泳再開と同時にパラ水泳界に足を踏み入れたのは大学3年の時だ。今、徐々に高校時代のタイムに戻りつつあるという辻内。今後の飛躍が期待される。

(文・斎藤寿子)

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