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競技レポート

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日本、世界王者に1点差の惜敗 車いすラグビーワールドチャレンジ2019

オーストラリアの激しいタックルにも、しっかりボールをキープする池崎(撮影:越智貴雄)

 世界の強豪8カ国が集結した「車いすラグビーワールドチャレンジ」は、19日、大会4日目を迎え、日本は世界ランキング1位オーストラリアとの準決勝に臨んだ。第3ピリオドを終えて40-40と世界王者と互角に渡り合った日本だったが、第4ピリオドの序盤で痛恨のターンオーバーを犯し、連続得点を奪われて2点ビハインドを負った。逆転を信じて最後まで戦った日本だったが、あと一歩及ばず、56-57で敗れた。

大きく響いた最終ピリオド序盤のターンオーバー

日本とオーストラリアとの準決勝、お互いに激しいボールの奪い合いとなった(撮影:越智貴雄)

 1年後に控えた東京パラリンピックの本番を想定して今大会に臨んだという日本。だからこそ、わずか1点差での惜敗にも、選手たちには計り知れないほどの大きな悔しさが残った。

 この試合、両者ともにハイポインターとローポインターを組み合わせたユニット「ハイローライン」を柱とする戦いだったが、その内容は大きく異なっていた。

 世界的エースのライリー・バットを中心に「0.5、0.5、3.5、3.5」の“超”ハイローラインを主力とするオーストラリアは、バットともう一人のハイポインターであるクリス・ボンドがパワーとスピードで打開してトライを決めていくスタイル。特にバットは、スタミナも強靭で、両チームで唯一のフル出場だったにもかかわらず、最後の第4ピリオドでも試合開始時と変わらないキレのある動きでコートを独走した。

 一方、日本は「0.5、1.5、3.0、3.0」「1.0、1.0、3.0、3.0」という2タイプのハイローライン。4人の連携が重視され、キャプテンの池透暢、池崎大輔、島川慎一のハイポインターが主な得点源ではあるものの、彼らが相手を引き付け、そのスペースに走りこむローポインターがトライを決めるシーンも。ケビン・オアーHCが目指す“多様性”のあるチームとなりつつある。

 フィジカル面においても、決してオーストラリアが絶対的に有利ではない。パワーやスピードではバットが世界随一だが、代わりにオーストラリアにはない高さが日本の池にはある。お互いにそれぞれの強みをいかしたプレーで、この試合も次々と得点を重ねていった。

 日本はオーストラリアの強固なディフェンスにミスでターンオーバーから連続失点でビハインドを負う場面もあったが、そのたびに挽回し、食らいついていった。しかし、第4ピリオドの序盤にターンオーバーを犯し、連続失点。結局、これが最後まで響き、オーストラリアに巧みに時間をコントロールされる中、残り11秒で55-57と2点のビハインドを負うと、池崎大輔がトライを決めるも、残り時間はわずか2秒。日本が逆転する余地はもうなかった。

光った“チーム力”と“新戦力の台頭”

オーストラリア選手をしっかりおさえる長谷川(右)(撮影:越智貴雄)

「選手たちがどれだけ勝利を信じていたかが問われた試合だった。“hope”ではなく“believe”だったかどうか。私は日本がオーストラリアに勝てるチームだと信じている。それを選手たち自身が信じられるかどうかが大切。それが2020年に向けてのキーポイントになる」

 試合後、ケビンHCはそう語った。期待するがゆえの厳しい言葉でもある。

 一方、敗戦から得るものは決して小さくはない。キャプテン池はこう語る。

「準備が足りなかったことを確認することができました。今は『金メダルを獲れるかもしれないチーム』。それを『金メダルを確実に獲れるチーム』に変えていかなければならない。今の努力では足りない。もっとやるべきことがあるということをみんなが認識することができた試合だったと思う」

 さらに、随所に日本の強さが散りばめられていたことも確かな事実。その一つが「チーム力」だ。

 第3ピリオドの中盤、乗松聖矢が相手のタックルに耐え切れずにトライポストに当たり、ペナルティを取られた。これでオーストラリアのボールとなったものの、その直後、トライを狙った相手エースに池が猛タックルし、トライポストへと押し込んだのだ。味方のミスを帳消しにする好プレーに、チーム一丸を示す「ONE TEAM」の姿が映し出されていた。

 もう一つは、長谷川勇基という新戦力の台頭だ。2018年1月に代表合宿に初招集された長谷川は、今年に入って急成長を遂げている。すべての海外遠征メンバーに選ばれ、9月にはアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)に出場。そこで初めてスターティングメンバーに抜擢されたという長谷川だが、今大会は主力の一人として活躍している。

 持ち点は最も障がいの重い「0.5」だが、磨きをかけてきたポジショニングの技が光り、この試合では相手のハイポインターと堂々とマッチアップ。しっかりとトラップをかけ、何度も動きを止めて味方がトライする道を作り出した。

 1カ月前のAOCでは緊張で何もできなかったと悔やんだ長谷川も、プレータイムが大幅に伸びた今大会では徐々に試合に出場することにも慣れ、緊張することなくプレーに集中することができているという。

「相手の体力を消耗させることが自分の役割。そして僕が長い時間使ってもらえるようになることで、ほかの選手が休むことができる。長期間の大会では、こうやって出番が増えてくるのかなと思っています」

 大会最終日の20日、日本は3位決定戦でイギリスとの再戦に臨む。快勝し、有終の美を飾る。

(文・斎藤寿子)

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