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トライアスロン日本初メダルの宇田秀生 恩返しの銀メダルに男泣き

トライアスロン男子2位でフィニッシュ直後、溢れ出る涙の宇田秀生(撮影:越智貴雄)

 「東京パラリンピック」第5日の8月28日、お台場海浜公園で行われたトライアスロン男子PTS4(運動機能障害)クラスで宇田秀生(NTT東日本・NTT西日本)が銀メダルに輝いた。トライアスロンのメダル獲得は五輪、パラリンピックを通じて日本勢初。宇田自身はパラリンピック初出場での偉業達成となった。

 フィニッシュ前は笑顔でスタンドに手を振り、フィニッシュ後はその場に座り込み男泣きに泣いた。
 レースは早朝6時半にスタート。スイム0.75km、バイク20km、ラン5kmの3種目を全力で戦い抜いた宇田は汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら、「何があっても諦めないという気持ちで、とにかく一生懸命走りました」と開口一番。その言葉はまるで自身の半生そのものだった。

トライアスロン男子でフィニッシュ手前で渡された国旗を手に、最後のストレートを走る宇田秀生(撮影:越智貴雄)

 2013年5月10日。勤務先で右腕をベルトコンベヤーに巻き込まれる大事故に遭い、利き腕である右腕を肩甲骨から失った。婚姻届を出した5日後というタイミング。新妻の亜紀さんは新たな命を宿しており、希望にあふれた人生は一変した。

「フィニッシュする直前からいろんな気持ちが込み上げてきて、こらえるのにいっぱいいっぱいだった。すごく幸せな最後のストレートでした」

 支えてくれた仲間や家族の話になると、涙があふれてくる。レース前夜にはたくさんの人から応援メッセージが届いたといい、「メッセージひとつひとつから大きな力をいただいた。その力を全部レースに出せたんじゃないかと思う」とまた涙。

 もともと大学時代までサッカーをやっていた宇田だが、リハビリで初めた水泳がきっかけとなり、トライアスロンを始めた。デビュー戦は2015年6月。国内大会で準優勝すると、続く8月のアジア選手権で優勝。世界でも通用する手応えを得て以来、東京パラリンピック出場を目指しストイックに競技と向き合ってきた。

 自他ともに認めるトレーニングの虫は「いろんな人との時間を犠牲にしてトレーニングに集中してきた。僕だけに限らないんですけど、パラアスリートも健常者と同じ量、同じ質のトレーニングを一生懸命に積んでこの舞台に立っている。そこの競技力を評価してもらいたいと常々考えています」と言う。

 苦手を克服するため強化してきたスイムでは8位と出遅れたが、バイクで3位に浮上。ランでは2位に追い上げた。
大会前、レースの鍵を握ると話していたバイクの上りは、「ほとんどの選手との距離感を掴むことができたので、頑張ってペダルを踏んだ」と振り返る。またランでは頭の中で1から8まで数えることでピッチを維持し、「苦しいときでも、いつものリズム、いつものテンポで最後まで走り切れた」と話した。

トライアスロン男子で銀メダルを獲得し、涙を流しながら日本国旗を振る宇田秀生(撮影:越智貴雄)

 母国開催のパラリンピックで大きな成果を挙げた宇田。

「僕は障害を負っていますけど、アスリートとして見ていただけるいい機会になったんじゃないかと思いますし、どんどんトライアスロンが広がっていけばいいなと思います」

 喜びを伝えたいのは、やはり家族と仲間。「いろんな人と面と向かって話したい」とようやく笑顔を取り戻した。

(文:高樹ミナ)

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