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競技レポート

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「トルコ戦で見た予想を超える強さ」 車いすバスケ世界選手権2018

 パラリンピックと同じく、“4年に一度の世界一決定戦”である車いすバスケットボールの世界選手権大会が16日、ドイツ・ハンブルクで開幕した。今大会には各大陸予選を勝ち抜いた、男子16カ国、女子12カ国が出場し、11日間にわたって熱戦が繰り広げられる。

チームのエース、香西宏昭(撮影:越智貴雄)

想定済みだったブーイングの嵐

「もしかしたら僕たち日本は、世界の驚異的存在となるのかもしれない」
ヨーロッパ王者のトルコを破ったその日、トルコの大応援団の間をかいくぐり、急ぎ足でミックスゾーンへと向かう中、ふと頭に浮かんだのが、この言葉だった。それは、今年6月に日本国内で行われた国際親善大会「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 2018」で、全勝優勝した日、エース香西宏昭が語った言葉だ。それが目の前で現実に起こっていた。

 この日の会場は、両サイドのスタンドが真っ赤に染まっていた。日本とトルコの両国の国旗がいくつも並んでいたのだ。しかし、明らかにトルコの数が上回っていたことは一目瞭然で、スタンドをジャックするかのような勢いがあった。その光景は昨年のU23世界選手権やヨーロッパクラブ王者を決めるユーロカップでもお馴染みで、予想はしていた。だが、それでも独特の応援スタイルの威圧感は凄まじく、その中にいるはずの日本の応援団の声は、完全にかき消されてしまっていた。

 そんな日本にとって重々しい空気の中で始まった試合は、見た目にはトルコに分があるように思われた。得点を見ても、1Qは9-14、2Qも23-29とトルコのリードで前半を終えた。だが、日本には決して焦りも不安もなかった。オフェンスではフィニッシュが決められずに得点が伸びなかったものの、優先事項であるディフェンスはしっかりと効いていると感じていたからだ。

 その証拠に、見た目の印象よりも、トルコとの差は開かなかった。だからなのだろう。イライラ感を募らせ始めたのは、リードしていたトルコの方だった。

 試合の前半からファウルが多かったトルコだが、後半に入り日本のオフェンスが機能し始めると、さらにプレーが荒くなり、3Qだけで2つのアンスポーツマンライク・ファウルを取られてしまう。そのたびに、トルコの選手はレフリーにかみつき、そしてスタンドの観客にブーイングを促すようなしぐさをして抵抗した。観客もそれに応えるかのように、足で床を鳴らしながらブーイングの嵐を巻き起こし続けた。

 そして、試合が進むにつれて、会場の雰囲気は騒然となっていった。しかし、日本の選手たちの表情は何一つ変わることはなかった。そうなることは想定済みだったのだろう。コート内ではチームメイトとコミュニケーションを図る際、リラックスした表情さえもあったほどだ。

「2年前のパラリンピックでは、海外の選手のスイッチの入り方に圧倒されました。それまでフレンドリーだったのが、試合になると一瞬で戦闘態勢に入るんです。『あぁ、だから強いんだな』と。でも、今の僕たちにはそんなふうに本気になってかかってくる海外勢を跳ね返すだけのフィジカルとメンタルが十分に備わっているので、不安はありません」

 大会前、村上直広がこんなふうに語っていたことが思い出され、「なるほど、こういうことか」と改めて思い知らされていた。

試合前、円陣を組む日本選手たち(撮影:越智貴雄)

日本にとっては“当然”の世界を震撼させた快挙

 そして、“その時”が訪れた――。
 45-45の同点で迎えた4Qの序盤、日本の「トランジションバスケ」がさく裂した。ディフェンスリバウンドからの速攻で、鳥海連志、秋田啓、古澤拓也がしっかりとシュートを決めてみせた。さらに香西、古澤のアウトサイドからのシュートも立て続けに決まり、日本がトルコを引き離した。

 終盤、トルコは3点差にまで詰め寄ったが、最後は秋田がトルコ応援団からの大ブーイングの中、フリースローを2本ともにしっかりと決めてみせ、日本が67-62で接戦を制した。

 まるでトルコで開催されているかのようなアウエーの雰囲気にもひるまず、焦りと怒りをあらわにしたトルコとは裏腹に、日本の選手たちは“淡々と”自分たちのバスケをすることに集中していた。その落ち着きぶりは、試合後のインタビューでも同じだった。

 日本にとっては史上初めて、そして現在ヨーロッパ王者であるトルコから、アジアの日本が白星を挙げたことが、いかに世界の車いすバスケ界を震撼させた出来事だったかは、国際車いすバスケットボール連盟のフェイスブックに書かれた、こんな文章が証明している。

<Japan caused the shock upset of the day as they beat Europian Champions,Turkey,in what might have been the most exciting game of the 2018 World Championships.>
(日本がヨーロッパチャンピオンのトルコを破る番狂わせを起こした。それは、今回の世界選手権では一番エキサイティングなゲームになったに違いない)

 この文章を目にした時、2カ月前、香西が口にしていた予言が的中したことを感じずにはいられなかった。

 ところが、当の本人たちはというと、誰一人浮足立つ様子はなかった。それどころか選手たちは皆、「勝って当然」という堂々たる雰囲気さえ醸し出していたのだ。

「これほどまでに、このチームは強くなっていたのか……」
これまで強化合宿や海外遠征など目にするたびに、成長し、頼もしさを感じてきたものの、世界一を決める大舞台での彼らの姿は、予想をはるかに超える強さを持ち得ていた。

 大会は5日目を終え、男子は明日21日から決勝トーナメントがスタートする。日本は1回戦でスペインと対戦することが決まった。スペインは、今大会ではグループリーグで3戦全敗を喫しているが、2年前のリオでは銀メダルを獲得している。当然だが、簡単に勝てる相手ではない。

 しかし、今の日本なら、自分たちのバスケをしさえすれば、相手がどこであろうと十分に勝つ可能性がある。トルコ戦での勝利は、そう確信するだけのものがあった。

(文・斎藤寿子)

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